手に取った赤い花束

救いの塔。

コレットはロイドたちには知られたくない、と早朝。ロイドたちが出るよりも早く出発することになった。それは、私とシエルとクラトスが。飛竜に乗り、救いの塔の前までたどり着いた。コレットは扉の前で祈りを捧げている。その様子を見ながら、振り返る。
町は遠い。空にはただ高く救いの塔が見えるだけだ。あの日見上げた時には、空は真っ青ではなかった。ただ、いまは青い空。けれど、気持ちはどこか穴の空いたようにぽっかりと空いたままだった。



「…で、何処まで行くんだろーなセレネ」
「そうね」

コレットは救いの塔へと進んで行った。私とシエルはクラトスに続き、別の道を歩いている。通路を歩きながら、ため息をついた。そのシエルの呟きは聞こえたのだが、聞こえなかったのかは分からないが、黙って前に進むクラトス。
通路は特に何かがあるわけではなくて。避難用にでも作られたのか、救いの塔の外見からはあまり想像出来ないほどに素朴、というか簡潔な造りだった。


「もういいだろ?いい加減さ、茶番は終わりにしよーぜ。お互い疲れるし」

シエルの言葉にクラトスは立ち止まった。光と共にシエルはローレライの剣を握る。私はそれを見ながら、小さくため息をついて数歩下がった。狭い通路だ。此処で戦闘するには、譜術は向かない。だとしたら、私がやるよりもシエルが相手をした方がいいだろう。

「…お前たちは異分子だ」
「何千年も生きている人に言われたくはないわね、その言葉」
「確かに…そうだな」


小さく笑ったクラトス。いい加減に焦れったくなったのか、シエルは剣を構えて走り出した。あぁ、手が早い。そう思いながら、音叉を取り出し握った。ユアンも早く教えてくれればよかったのに、あとで絞めましょうか。
突如に放たれた魔術にシエルの足が止まる(あぁ、引っかかってるわ) 突嗟に手をかざして、超振動を放った。光ののちに、辺りに少し埃が舞う。その光の向こうにいたのは、薄い青の羽を持ったクラトスの姿だった。



「……似合わぬぇー」

小さなシエルの呟きが聞こえて、思わず顔を歪めた。あんな言葉遣いは久々に聞いたから、なんだけれど。確かに似合わないと思ったのは、あれよ、そうよ。思ったわ。


「何をしに来た、"聖なる焔の光"」
「俺だけ?!セレネは…あーまぁいいや」
「答えろ」

鋭い視線には殺気も含まれていた。ちなみに私もそんな視線を向けていた。事実、私はルークが此処に来た理由を未だ聞いていない。無理矢理にでも聞こう、とは思ったことはあるが、聞かなかった。


「お前らに答えてやるつもりはねぇーし。"俺ら"と同じような考えしかない、お前らにはな」

恐らく、預言のことなのだろう。どうして、この世界にそれがあるのかは分からないが。ユアンたちが預言を知っていたこと、ロイドたちは知らなかったこと。つまりは特定の人たちは預言を知っている。おそらくクルシス。


「シエル、私は行くわよ?」
「あー分かった。あとから行くわ」

コレットのところへ行かなければ。その意味が分かったのか、ひらひらと手を振った。私のことを止めるつもりはないのだろうか。まぁ、止められても困るけれど。
余裕そうなシエルに背中を向けて、歩き出す。ゆっくり行ったところで、恐らく間に合わないということはない。ロイドたちも着いているだろうし。背後から聞こえる派手な音に、少し呆れながら歩く。あぁ、通路が通行不可能にならなければいいけれど。


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