君流ストラテジー
「…これは…」
ボルトマンの術書に乗っていた術は、案の定私が使える術だった。そのため、ハイマへ再び戻ることにしたのだけれど、その前にマナの守護塔の鍵をルインの教会へ返しに行こうという話になった。ルインへ向かったのはよかったが、たどり着いたその場所は、この間のルインからは想像出来ないようなものだった。家や建物はことごとく破壊されていて、綺麗な町並みは面影すらも残していなかった。
隣にいたシエルが強く自分の手を握っていたのが見えた。そこまで強く握る必要ないのに、なんて思いながら。こういうところはロイドに似ている。多分、クラトスも。そう思って少し後ろにいるクラトスを見れば、やっぱりロイドやシエルと似たような表情をしていた。
「誰も、いないみたい…」 「うん、静かすぎるよね…」
唖然としているコレットとジーニアスの声に、リフィルが生存者を探そうと声をかけた。効率を考えて、回復が使えるようにと分かれることにした。その結果、何故か私がロイドと、クラトスはコレット、ジーニアスはリフィル、そして何故かシエルが一人という分け方になった(納得いかない←)
町の奥にある噴水の近くまで来て、辺りを見回す。その風景を見ながら、小さくため息をついていた。どうせ預言を詠んでしまうなら、こういうことが回避出来るようにならないのか、なんて。自分から詠む気にはならないのだけれど。
「どうして、こんな…」 「落ち着きなさいよ」 「姉さんは悔しくないのかよ!!」
崩れ落ちている家を見ていたロイドは、私の言葉に勢いよく振り返って私を見てきた。なんだか久しぶりに呼ばれた気がする。ロイドが勝手に呼んでいるだけなのに、馴染んでしまったのは…気にしない。 そんなことを考えながら、笑ってしまいそうだったけれど、なんとか笑わないように堪えていた。
「馬鹿ね。こんな時にだから、冷静にならなきゃいけないのよ。…ただでさえ、普段冷静な奴らがキレかかってるのに…」 「え?」
ロイドが首を傾げていることは分かっていた。ジーニアスはコレットはロイドと同じだろうし、リフィルはこういう時こそ冷静になる。が、こういう時にこそ何故か熱くなりそうなのが若干2名。なんと言っても心配なのはシエルなんだけれど、
「なー姉さん、誰だよーこんな時に冷静になれない奴って!」 「それよりも、早く怪我人を探さなければ手遅れになるかもしれないわよ?」 「そうだった!」
思い出したのか、慌てたように走り出したロイド。ふと、そんなロイドを見ながら、昔のシエルを思い出したりして。似ていたからかもしれないけれど。少し先で早く早くと手を振っているロイドに苦笑いしながら近付いた。ふと、その足が止まる。ロイドの後ろ、噴水の側に座り込んでいる彼女に見覚えがあったから、だ。
「…しいな……」 「あ、彼奴…コレットを狙ってる暗殺者の……って姉さん!!」
どうしてしいなが、なんつ思いながらしいなに慌てて駆け寄る。ロイドが後ろから呼んでいたが、それよりも怪我の酷いしいなが気になった。私がしいなの前にしゃがみ、音叉を手にしたとき、ロイドが追い付いてしいなを見た。
「こいつ…すごい傷だらけじゃないか!」
ロイドの声にしいなが気付いたようで、顔を上げた。目の前にしゃがんでいる私を見てから、隣にいるロイドを見て。少し、自傷気味に笑った。
「あんたか…。今のあたしなら、トドメを刺せるよ…。今の、あたしには、戦う力なんか残ってない…からね」 「馬鹿なこと言ってんなよ!!姉さん、早くこいつに……」 「分かったから、焦らない」
私の行動には驚かないしいなだったけれど、さすがにロイドの言葉には驚いたみたいで。(敵にトドメを刺せると言われたのに、それを馬鹿なことって言ったのは私も驚いたけれど)
「ハートレスサークル」
音叉を片手にしいなへ掲げた。譜陣がしいなを囲むように展開して、一瞬で消える。ほぼ同時に、しいなは自分の手のひらをギュッと握ってから私を見た。
「相変わらず不思議だな。魔術じゃないんだろ?」 「そう、ね。魔術ではないわね それより、一体なにが…」 「そうだ!!なんであんたが怪我してんだよ!それに……」
私の言葉を遮って、しいなに慌てたように掴みかかるロイド。傷は癒えているけれど、流れた血まではすぐに戻るわけじゃない。そんなロイドの態度にため息をついて、いまだに右手に持っていた音叉をロイドの頭上へと振り下ろした。なんとも言えない素晴らしい音を立てて、ロイドは座り込む。(そしてそれを見下ろす)
「言ったわよね、冷静になりなさいって」 「……ずみまぜん…」
地に伏せながら呟いたロイドに、満足そうに笑った私。そんな私を見ながら、「……本当に…相変わらずだよ…」なんて言っていたしいなは見なかったことにしてあげた←
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