踏み出す一歩

昼過ぎ。朝早くからユアンが直々に見張りにきて、私は音叉を探しに行けずに。というか何故解放してくれないのかしらね。とにかく、レネゲードとはそこまで暇なのか知らないけれど、ユアンがいるせいで動けなかった。そして今、何故かユアンが慌ただしく部屋を出ていき、シルヴァラントベース自体がわさわさと動き出した。

よく分からないけれど、これはチャンスなのではないか。とばかりに音叉が置いてあるはずの部屋に向かって歩き出す。ちなみに何故か通路にいるレネゲートは私のことは素通り。…これでいいのかしら。


「この部屋…だったかしら?」

一つの部屋を前にして、扉を開ける。そこは、確かに見覚えがある部屋だった。間違いない、最初に連れてこられた時の部屋だ。そう認識して部屋の中を見渡せば。壁際に置いてある音叉が目に入った。

「渡したくないならば、隠さなければ意味ないじゃない」

小さく笑いながら音叉を手にして、収めた。全く、余計な手間がかかったわ。テセアラに行ったり面倒に巻き込まれたりシルヴァラントに逆戻りだったり…それ以前に異世界に飛ばされたり。全く、どうしてこうも面倒なことになったのか、と小さくため息をついた。



「よし、ここなら……」

その時、不意に誰かの声が耳に入ってきた。その聞き覚えのある声に、一瞬不思議に思いながらも剣に手を当てる。いざとなれば斬り倒して逃げればいい。その声に触発されて振り返ると、そこには確かに見覚えのある人が2人、そこにいた。


「誰だ!貴様、何故こ…何故お前が此処にいる?!」
「あら貴方いたのね。気付かなかったは影が薄いこと」

見覚えがあるにしても…なんてため息。いつの間に部屋にいたのか、私と先程入ってきた奴の間にユアンがいた。大体私にも気付かないってどういうことかしら。軽くため息をついて、剣を握ってユアンを見た。此処で殺りたいのは山々なのだけれど。いやしないけど。


「姉さん?!」
「私に兄弟はいないわ……ってロイド?!何故こんなところにいるのよ!」
「姉だと…?まさか貴様、ロイド・アーヴィングか!!」

ユアンの後ろ、そこにいたのは懐かしい赤い服。驚いたようにロイドが私を見ていて、ユアンが私とロイドを交互に見ていた。…あれ、とそこで気付いた。どうして私を姉と呼んだだけで、ロイドだと分かったのだろう。怪訝そうに眉を寄せながら、再びユアンへと視線を移す。

「ユアン、何故私が姉だとロイドだと分かるのよ」
「何で姉さんが此処にいるんだよ?!」
「なるほどな…確かに面影はある」

あぁ、駄目だ。話にならない、と軽く頭を振ったら呆れるようなため息が口から零れていた。頭の痛くなるような会話だなぁとふと思った。どこかしら抜けているユアンに呆れているだけなのだけれど。その会話のせいで若干苛々しているのは否めない。


「ユアン様!!」
「「黙れボータ!」」
「あれ?俺邪魔?」

つい、ユアンと一緒にボータに向かって叫んでしまって。落ち込むボータにユアンが我に返っていたのが見えた。此処にロイドがいるということは、コレットもいるだろう。だとすれば、いい具合に合流出来そうね、なんて小さく笑っていたら。退却するつもりなのか、肩をひるがえしたユアンが僅かにこちらを向いた。

「セレネ、貴様分かっているんだろうな」
「さっさと失せなさいよ」

ひらひらと片手を振りながら、ユアンにそう言い放つ。ふっと軽く笑ったユアンは、そのまま部屋から逃げて行った。どういうことだろうか、と少し疑問に思ったが、それはあとで聞けばいいことだ。

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