チョコレート味のおまじない


「名前ちゃん、なに食べてんの?」
「あっついくっつかないで。チョコレート」
「…俺様地味に傷付いたんですけど」


あからさまにガクリ、と肩を落としたゼロスを見て笑いながら名前はまたチョコレートを口に運んでいた。箱を見る限り、なんだか高そうなチョコレートで。中身もそこそこ良さそうなそれにゼロスは顔を少ししかめていた。


「どーしたのよ、そのチョコレート」


そのゼロスの問い掛けににこり、と振り返った名前は抱き着いているゼロスを引きはがしてから絶対零度の満面笑顔でチョコレート片手にゼロスを見ていた。嫌な予感がゼロスの頭を過ぎったこりしたのだが。


「どうしたもこうしたも可愛いらしい女の子が神子様に渡して下さいって持って来たのを私が食べているだけなのだけどなにか問題でも?」
「問題ありません。」


ゼロスが速攻で謝ったのは当然のことで。心の中でシルヴァラントの女ってみんなこうなのか、と自分のパーティーメンバーを後ろに見てひそかにため息をついた。

それでも嬉しそうにチョコレートを眺めている名前。この場合チョコレートが好きだから、ということなんだろうな。名前がチョコレートを口に運んだのを見て。何かを思い付いたようににやりと笑ったゼロス。たまたま横を通り掛かったジーニアスは顔を引き攣らせて見ないフリ。


「名前ちゃん、俺様にもちょうだいよ」
「んっ」


自分も口にチョコレートを入れてからゼロスに差し出したチョコレート。ゼロスは差し出されたチョコレートを摘んで、名前の口に放り込んだ。怪訝そうな顔をする名前に、にやりと笑ったゼロス。危機感を感じたのか、一歩下がったが時すでに遅し。

一歩下がった名前の腕を引いて倒れ込むようにして寄ってきた名前にゼロスはキスをした。


「〜〜〜〜っ!?」

じたばたと暴れる名前を押さえ付けるように腕を掴んだままのゼロス。一瞬、ではなかったのは確かで。最終手段とばかりに蹴り飛ばそうとしたのに気付いたのか、ゼロスは少し距離をとった。腕は相変わらず掴んだまま。


「……甘すぎない?」
「っ…!」


にやにやと笑ったままのゼロスに自由が効く左手を名前は後ろに回した。それに気付いていないゼロスは楽しそうに、笑っている。


「こ、のチョコレート…ビターだよこんのアホ神子ォォォォォ!!!」
「あだっ!」


ものすごい勢いで名前が振り下ろしたのはハリセンだった。何処に 隠し持っていたのだろうか。あまりの威力にゼロスはそのまま地に伏した。


「二度と近寄んなアホ神子!」


あまりの威力の凄さに自分でファーストエイドをかけたゼロス。その目の前にいる名前は背中を向けているが、確かに耳が赤いのがよくわかる。散々はぐらかされてきたゼロスには嬉しい反応だった。


「とか言って名前ちゃん顔赤いぜ〜?」
「〜〜っ!もう知らない!」


ロイドたちのところに歩き出そうとしていた名前をまたゼロスは捕まえた。後ろから抱き着かれた、よりも後ろから抱き締められた、だ。


「覚悟しとけよ、ハニー」


何の覚悟か、言わなくても分かるだろ?そんな意味合いが含まれていたゼロスの言葉に、名前はまた叫んでいた。



(と、ときめいたのは
チョコのせいだからね!)

チョコレート味の
おまじない


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