青の指環
花卉隠れから暁アジトへ向かう途中の夜(実は来るのに10日かかった、女による仕事が全てバレないとだけあってめちゃくちゃ遠いのだ)、
宿は同じ部屋でとった。
鬼鮫とイタチにはブツブツ色々いわれたが、一切の下心を否定した。
否定しただけで内心ワックワクである。
「お前、珊瑚ってのか。
てめえには話すことが山ほどある…お互い様かもしれねえが、まずは俺の話から聞け」
珊瑚はプイと視線を逸らした。
これを他の女がやってやろうもんなら、直ぐ丸焼きだが、やはり最高にいい女だ。
首を沿った角度まで、まさに造形美である。
「其方が悪かったのです。私は直ぐ国に戻るつもりでしたのに、貴方、私を連れ帰るおつもりでいたでしょう」
正直、あまり記憶に無いとは言い難い。
確かにそんな考えに至った覚えはあったような、なかったような。
といってもよく覚えているわけでも無い。
ここで珊瑚の術にハマったと認めるのも勘に触る、其れを隠しこのまま話し続けても、きっと珊瑚に上手く言いくるめられるに違いない。
仕方が無いので此方が腹を切ることにした。
「お前の能力は何だ。記憶と意識の両方を消すのか、他にもあるはずだ」
「知りたいですか」
目の前で、宝石のように大きな瞳は艶がかった睫毛を揺らす。
これ以上何かしてきたら、手を出さない保障はない。
現に今珊瑚の髪を触りたくて、右手が疼いている。
「良いから全部話せ。此方としても大体の能力は把握しておく必要がある。
…それと、これだ」
俺の差し出して見せた指輪に、女は目を丸くした。
「展開が早すぎますわ」
「何を言ってる。暁に必要な指輪だ」
「ふうん、青≠ナすか。何処に付けたらいいんでしょう」
珊瑚は典麗な掌を向けた。まさか、俺にはめろと言うのか?
今己の顔に血が通っていたとするならば赤面である。
いや、何を言ってる。これはこの女に触る絶好のチャンスだ。
震える手を抑えて女の人差し指に指輪をはめてやった瞬間、身に覚えのある嫌な予感がしたのだった。
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