花の鎖

「今回、そのお前の言っていた術を見せろ」
「そのつもりでした」

珊瑚のその術は多大なチャクラを用し、その命を削り、一晩深い眠りにつかせる術。

言うまでもなく珊瑚は覚悟していたようだが、此れっきり、使わせたくない術だ。

「終わったら、無理すんな」
「致しません」
「…俺が担いで帰ってやるから、そのまま寝ろ」
「素敵ですね」

ふふふ、と柔らかな声を漏らして笑った。
こんなことを言う俺が馬鹿馬鹿しく見えたのかもしれないが、こっちは本気で心配しているのだ。

「そんなこと言ってる間に着きましたよ。
…少し離れてご覧になっていて」

辿りついたのは小さいながらも立派な里だった。
その里外の森の木陰から仕掛けるつもりのようだが、このままだと珊瑚は里ごと術をかける。

「おい、こんな広範囲で…!」
「鏡遁・虚堂懸鏡」

見たことも無い印を即座に結び大地を突くと、里の上を蠢く民衆一人一人が一瞬のみ静止し、武器を取り始めた。

「お終いです」

頬を紅く染め、少し息の上がった珊瑚をヒルコの尾で抱きとめ、引き寄せた。

珊瑚を抱えたまま木陰から里を見下ろした。


どうやら民衆はそれぞれの武器で仲間たちを刺し合っている。
血の池を走り、血の涙流してクナイで貫き、貫かれている。

「意志とは逆の行動をするって、こういうことか」

其れに終わりはなく、終わりが意味するのは全滅。
里中の忍、女子供まで血で滑る武器を必死に掴み、殺人鬼と化している、地獄絵図。

二十にもならぬ幼いこの娘は一度の印で地獄を創る。
たった一つのその術が人里を地獄に変える。

珊瑚の肩は震えていた。
涙は流していなかった。ただ震えて、終わるのを待っていた。


「てめえは、何にも悪くねえよ」

頭を抱いて呟くと、ギュッと、珊瑚が俺に回した腕の力が強まった。

「このまま腕に抱いていてください」

今の俺からは幾分も温度は感じられないのだろう。
もし多少なりとも熱をこの娘のために放つことが出来れば、それはどれ程良いだろう。






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