/猫耳



ばれてはいけない。尻尾だけであっても散々な目に遭ったのに。「猫耳も欲しいよね」「猫耳があれば完璧なんだけど。あ、悠太はいつでもかんぺきに可愛いけど」「猫耳」「猫耳はいつ生えるの?」そんなことをしょっちゅう聞かされていた。知らない。
帽子を被ってみた。キャップの中で潰れて痛いので諦めた。痛覚もちゃんとある。触覚があるのだ。つまり祐希に見付かったら終わりだった。
鏡を覗き込む。
形は三角で大きくて、尻尾と揃いの白色をしている。触れてみるとふわりふわりと指先が埋まる。尻尾の方はもっと毛並みがたっぷりで、長さは伸ばすと膝までありそうだった。
「何してるの、ねこさん」
鏡の中に映った影があった。振り返ると、会いたくないその人がドアを開けてこちらを眺めていた。
「あれ?悠太くんだ。何で猫の真似なんてしてるの?」
実にわざとらしい首の傾げ方だった。ドアを閉めて、ぼすんと鞄を投げ捨てるのが嫌だ。両手を空けて、悠太を捕まえる為の準備のようだ。驚いてぴくんとした耳に目を輝かせている。
「…………千鶴の家じゃ」
「悠太に会いたくて帰ってきた」
「…祐希は…。そういうの良くないよ。前もアニメの再放送があったの忘れてたって約束断ったでしょ。千鶴に呆れられても知らないから…、………なに?」
口元を袖で隠して祐希はふるふるしていた。一言も聞いていない顔だ。
「その耳で言われてもぜーんぜん怖くない。もっと怒って」
「…」
「あ、耳ぺたんてした」


祐希は特に猫好きではない筈だ。けれど大変に気に入ったらしい。「あのね、猫耳は間違いないんだよ。確実なの」生徒に一般常識を言い聞かせる先生みたいな口調で言われた。
何にだろう。
「触りたい」
「嫌です」
「触らせて」
「だめだってば、…放してよ」
祐希こそ猫みたいな虎みたいな獲物を捕らえる目をして、悠太を押さえ付ける。背を向けたって、尻尾を握ってしまえばいい。
「―っ…あっ!」
咄嗟に口を押さえたけれど、そんなその場しのぎは祐希には容易に崩される。握った手のひらの中でぐ、ぐっと揉まれた。鋭い刺激が腰から腿へ、下肢を通り抜けた。びっくりするくらいの。悠太の膝が床に落ちて、非力な子供みたいにへたりこんでしまった。子猫みたいに?そんな悠太に被さる祐希。
「…祐希っ、本当に嫌だ。…やめて、……あっ、う」
振り払おうとする指先が震えるのを隠せない。尻尾を性器にするそれのように握った手のひらで上下に撫でられた。ゾクゾクと鳥肌が立って、尻尾の毛も逆立った。ふわふわした毛が膨らむ。
「…気持ちいと大きくなるの?これみたい」
前に回った祐希の手が悠太の脚の間を撫でた。衣服の下で熱くなり始めている何か。
「……っ…ふ、う…」
祐希の言うことはいちいちいやらしいのだ。恥ずかしさをこれ以上大きくさせないで欲しい。もう触られたくなかった。これ以上は駄目な気がする。悠太が耐えられない気がする。速くなる呼吸で胸が上下する。息を吐く音が大きい。
ぴくん、ぴくっ。悠太の頭で跳ねている獣の耳に祐希は触れた。その瞬間に耳は嫌がって震えるけれど祐希は構わない。柔らかくて薄い猫の耳。指先で擦り合わせるように撫でた。
「っあ…」
目を瞑って首を振った。心臓からのキュウウという快感の痛みが広がって胸へお腹へと浸透する。指先が痺れる。耳をはむと唇で食まれた。
「やっ、…!」
ひときわ敏感だった。あむあむとする祐希の唇の形を悠太は感じる、猫の耳から。
情けないと思った。自分の物でもない、突然生えてきた尻尾と耳だけでこんなことって。性器や前立腺へのそれとはまた違う、しかし確実に性的快感を引きずり出す刺激だった。知らない感覚を一度に叩き付けられておかしくなりそうだった。助けて。
赤が目に入った。それは細いリボンで、祐希はうっとりしながら悠太の首に巻いて飾り付けたのだった。
「首輪。猫さんには必要でしょ」
綺麗な蝶々結びを作る祐希の手が、熱い悠太の性器を優しく撫でて、また尻尾をきつく握り締める。喘ぎが言葉にならない。
「も……かわいい。まだいかないでね、オレが挿れてからね。悠太、聞こえてる?ペニスにもリボン付けられたくなかったらいかないで」
この人に助けてなんて何故思ったのだろう。服はもう脱がされていた。仕方ないじゃないか。どうしようもなくなった時、悠太が思い浮かべるのはいつだって祐希だった。


「やっ、やだ、やだ、やぁっ」
悠太は本物の猫のようににゃあにゃあ喘いだ。
「さわら、ないで、それ、もう、さわんないで」
悲鳴みたいだった。後ろから突かれながら枕に縋っている。腕はとっくに身体を支える力をなくしていた。前後に揺さぶられながらも尻尾は捕まえられていた。悠太の太ももは可哀想なくらい震えて、膝を立てているのも辛そうだった。それでも尻尾の根本をぎゅっと押さえたり、先っぽを指先でつまんだりすれば悠太が背中を反らして鳴いてくれるし、中は心地善く締まるし。祐希は止められない。
「ゆっ……き…、やぁっ、ああ…!」
背中にのし掛かって腰を腰で打つ祐希は、露になっている悠太のうなじに齧り付いた。「……っ、いた、いッ…」振り払おうにも歯を立てられているから痛くて叶わなかった。
「雄猫って交尾の時雌猫の首を噛むんだって。抵抗されないように、逃がさないように。こんなふうにぱくって」
そんなところまで真似しなくていい。





120221


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