/学校



ポケットの中の携帯が震える。前の休憩時間に祐希が入れていってそのままにしていた。こっそりと開いて見てみるとその彼からで、本文は空。しかし奇妙な画像が付いていた。小さな、瓶?ラベルも印刷もなくただ透明の素材で透明な液体が入っている瓶が映っている。わからぬまま休憩時間になって、これなに、と返信しようとボタンを打っていたら、なまで打った画面が袖に隠れた手に塞がれて見えなくなった。
「あの…返事しないと後で文句言うの祐希でしょ」
悠太の物は時間すら自分の為に使われなければ機嫌を損ねるという見上げた我が儘っぷりを地で行く浅羽祐希くんは、いつの間にか悠太の横に立っていて、「オレがいるのに。携帯なんかやめて」と会いに来るのがとても楽しいといった目で見下ろしていた。キャメル色のカーディガンに緩くネクタイを締めている。
祐希は自分で持っているいくつかのセーターを大事にしている。店で買う時には悠太も一緒に選んでと引っ張っていかれるのがお決まりだった。どれがいいか訊かれて考えに考えた末にこういうの似合うんじゃないと悠太が答えると、じゃあそれにすると祐希は一目で頷くので、祐希の買い物なのに悠太ばかりが悩んでいる。このカーディガンもそうして祐希の愛用品になった。先月のことだったろうか。思った通り、ゆったりした作りが彼の華奢な身体に良く合っていた。
「ねえこれなに?」
その場に祐希は屈んだ。椅子に座る悠太の脚にこてんと体を寄りかからせて、抱え込んだ膝に両手を置く。差し出された携帯を見上げた。
「なんだと思う?」
分からないと悠太が首を振るとプレゼントだと言う。それだけで説明は無かった。
脚に祐希の手が触れていた。膝に被せるように手のひらを置いて腿を上がってきた。ぽつりと呟く。
「したい」
「…………駄目です。ここ学校だよ」
「駄目なの?」
「駄目」
「どうしても?」
「どうしても。当たり前だよ」
「悠太がしたくなったらどうするの?」
「そんなことにはなりません。祐希じゃないんだから」
ふーん。分かった。祐希はゆっくりと立ち上がった。
諦めが良かったことを悠太は少し不審に思う。そもそも聞き入れられる期待をしていなかったような熱意の無さだった。祐希はやると言ったらやる。嫌だと言ってもやる。満足するまで無理矢理にでもやる。
肩に手を置いて祐希は耳打ちした。
「そんなことになっちゃうかも」





鍵が掛けられる音が無人のトイレ内に、映画のシーンように意味ありげに冷たく響いた。意味とは当然「ここからは逃げられない」だった。祐希の指が銀色の鉄を下ろす。カ、チャリ。

祐希がポケットから小瓶を取り出した。悠太の目の前でくいとあおって口に含む、頬を両手で挟んで上を向かせキスする。口内にその液体が流れ込んできて、悠太は咳き込むところだった。祐希の舌に誘導されて喉に通す。ひとくち、ふたくち。妙な香りがした。
「っは……なに、これ。……変な味…」
わくわくした気持ちを抑えられなくて悠太を抱き締めた。
「……何飲ませたの……」
「気持ちいい薬」
「……?……―あ、っ…」
腕の中の悠太が戸惑った声を上げた。みるみる熱くなる。祐希の腕を掴む手に力が、入る、入れようとしているけれど上手くいかない。試しに唇を合わせてみると、口移しした時とは別物の柔らかさだった、中が、舌で撫でるとふにゃりと蕩ける。
「…………はぁ」
蜜を混ぜて濡らしたみたいな、欲情した悠太の目を覗き込んだ。とろうりと揺れてて重たく見える。ゾクゾクした。祐希はこれになら喜んで捕まろう。ブレザーの中の背中を撫でただけでびくんと震えて、首に吸い付くともっと震えた。おまけに鳴いた。
ズボンの上から触る。中の悠太のは反応していた。試みは成功した。薬にも体質にも相性があるそうだけれど、いつでも祐希を愉しませる悠太の身体にはそんなこと関係ない。
「あー、いやらしい。どうしたの、これ」
「…………しらない…、…」
祐希は悠太のチャックを下ろして下着の上から強く握る。悠太はその手を振り払った。やめて、触らないで、って。こんな時だけすぐに言うことを聞いて祐希はただ悠太の身体を愛撫した。手のひらが優しくひと撫でする度に、体の奥から生まれるじわじわしたものに耐えきれなくて呼吸が大きくなる。
祐希の指が背中から柔らかい肉を伝ってその間へ入って行き、後ろの穴をくすぐった。悠太はもう何も喋れない。差し込んだだけで悲鳴を上げた。ああ、あう、んんっ。容易に侵入を許されて中で動き回る指を悠太の神経は従順に追いかけていた。奥へ進む。ぐっ、お腹の辺りの固い箇所を押す。
「ああっ!」
悠太の涙が丸くなって落ちそうだったから舐める。頬も舐める。舌に熱い。
「ひあ、…や、やっ…」
そこを擦った。
祐希の左手の中で泣いている熱い悠太が、もうだめって吐精しそうになるけどさせない。握って止めた。なんでと言う代わりに震える悠太の手が祐希のカーディガンをぎゅうっと掴んだ。
「すごいね。そんなに敏感なの」
はぁ、はぁ。必死に息をする悠太が可哀想だとはちっとも思えなくて、可愛くて可愛くて、この子が縋るものは祐希しかないのだと思うと愛おしくてもっとそうさせたい。祐希って呼んで欲しい。指を含む悠太の孔はもっと違う物を待っていた。悠太に訊くとそれだけはって首を振るけど。学校だということを忘れられず頑張ってる悠太は可愛い。
「いらないの」
「……、…っあ…やめて、やめて」
「言ったらやめる」
「……っふ、う…あっ…」
「ほら」
祐希の胸に体を預ける悠太の姿はいじらしくて祐希の劣情を掻き立てるに充分だった。小さな子供に対するように守ってあげたい。両腕で抱いてあげたい。
「…い…、……いれて…」
本当は祐希が挿入したいだけなのに、そうした方が楽になるんだよと宥めすかして悠太のせいにする。溢れる衝動に意識が蹂躙されている悠太は気付かない。祐希だけが楽しい。
背をもたせていた壁に今度は悠太を押し付ける。掴む場所もなくて悠太は壁に手を置いて握り締めた。時間をかけずに下半身を後ろからぴったりと重ねて、恥骨に悠太の柔らかい肉を感じる、強く揺さぶった。
「ああ、ああっ、ア、や…!」
ガタガタと一枚の板に過ぎない個室の囲いが暴れた。トイレの外にまで聴こえるかも知れない。悠太の脚はがくがくと崩れ落ちそうだった。
「悠太、いま、なんだっけ」
「…い、ま……―あっ、あ…、あ、んっ」
「授業中だよね、そんなおっきい声だしていいの」
熱い耳たぶを口に含んでくちゅりと吸った。いや、と首を振るのは快感が過ぎる為だとわかっていた。何かに掴まりたくて悠太の手が板にきつく押し付けられる。それを取って指を絡めたらぎゅと応えた。背中に被さって腰をぶつけた。悠太の好いところを何度も突いた。

射精したのに薬の効果は鎮まらない。猫みたいにふにゃふにゃになってしまっている身体を後ろから抱いて頭を擦り寄せていたのだけれど、脚の間に持っていった指が未だ消えない熱に触れた。手の中で弄ぶとやっぱりびくんと跳ねて、過敏な身体に悠太はどうしたらいいかわからないと言いたそうに弱々しく呟いた。
「…………ゆうきの、せいだから…」
「オレは楽しいけど。悠太がエッチしたいなんて滅多にないもん」
「…したいなんて言ってない……」
腹に回していた両腕を引っ張って、便座に座って、向き合う形で悠太を膝に乗せた。
「悠太が勃たせて」
言われるまま悠太は祐希の性器を手で包んで動かした。頭が霞む感覚が消えない悠太の状態が祐希には良く分かった。腰を支えて悪戯そうに見上げる。
「“そんなこと”にはならないんじゃなかったの」
「……っ…、―っ、んん…」
もう一度祐希の性器が入っていくのを悠太は祐希の首に抱き付いて耐える。下から突き上げられて、望んでいた強い快感を受けた。
「んっ、んん、あ……ああっ」
悠太の情欲を感じ取って祐希も興奮する。悠太は祐希が欲しくて堪らないのだ。身体を抱き締めて中に締められる感覚を味わっていると、男子トイレのドアが開けられる音がした。動きを止めた。
トイレに入ってきたのは会話から判断して二人組だった。喋りながらタイルの床を歩いてきて用を足している。悠太は必死にか細い呼吸を繰り返している。彼らは個室が使用中であることにも全く気付いていない様子だった。肩に額を押し付ける悠太を安心させるつもりでやんやり腰を撫でたのだけれど、悠太はそれにもぴくんと反応した。
「……」
男子生徒AとBは、帰ってと心で叫ぶ悠太の気持ちを無視してトイレに居座っている。
そっと悠太の性器へ手を伸ばして、蜜を溢すそれをさすった。これでも音が立たないよう配慮している。ゆるゆるとゆっくり上下に撫でた。悠太は口を手できつく押さえて、嫌々と首を振った。祐希の首にさらさらの髪が擦り付けられた。勿論聞かない、悠太には我慢して貰うしかないのだ。仕方ない。邪魔な彼らが悪いのだ。
「…………もう……やだ…」
密着する腿が大きく震えた。掠れた呟きが祐希の左耳に届いた。ぐったりと身体が弛緩する。
小瓶の残りをトイレに流されたら敵わない。祐希の魔法の薬だ。何度でもイかせてあげるから怒らないで、と肩にキスした。

明日は新しいカーディガンを買いに行こう、悠太と。





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