※死ネタ注意!
※この小説は「ザクロ型の憂鬱」をモチーフに作りました。
先輩…先輩の為なら俺は、
【そして彼は消えてしまった】
「先輩!おはようございます!」
元気な声が聞こえて僕の1日は始まる。
「今日の天気すごくいいんですよ」
そう言って彼はカーテンを引いて窓を開いた
窓からは晴れ渡った青空が見え、すごく気持ちよかった。
「いつもありがとうね、青葉君」
そう言って彼に笑いかければ
彼は満面の笑みで
「いいえ、俺は帝人先輩の為になるならなんだっていいんです」
と答えてくれた。
青葉君と出会ったのは偶然だった
足を骨折して入院してきた青葉君がたまたま僕の隣になった、ただそれだけのことだった
幼い頃から心臓の調子が悪くてこの病院にずっと入院していた僕はコミュニケーションをとるのが苦手で初めて歳の近い同室者ができたのに、なかなか話せずにいた
結局話しかけられず諦めようとした時に彼から話しかけてくれたのだ
それからは初めてできた友達に会うのだけが僕の励みになった
彼は退院してからも僕を気遣って今日のように僕に会いに来てくれる。
「先輩、聞いてくださいよ!こないだあった出来事なんですけどね……
青葉君が聞かせてくれる話しは僕にとって新鮮でいつも楽しみにしていた
だけど外の空気を感じている青葉君に少し羨ましさを感じたりしたのも事実だった
……ってな事があったんですけど、って先輩?聞いてました?」
「えっ?あっ!ごめんっ、ボーッとしてた」
考え事をしてたせいで聞きそびれてしまった…
「もう、先輩ってば最近ボーッとする事多いですよね…食事も食べる糧減ってるし」
青葉君は僕の台の上に置かれてる朝食をチラリと見て言った。
確かに最近はいつにも増して体がダルいし疲れやすくはなっているが人に指摘されるほどまでとは思っていなかった。
「ちょっと食欲がわかなくてさ」
「そんなんじゃ、退院なんてできませんよっ!」
チクリ
何気ない青葉君の言葉が胸に刺さった
「…うん、そうだね。退院するために食べなきゃね!」
と偽物の笑みを貼り付け
青葉台君に笑いかけた。
「そうですよ…って、そろそろ面会終了の時間来ちゃいましたね」
「そうだね…あっ!今日も来てくれてありがとうね」
「いいんですって!俺は先輩の為に生まれてきたんですからっ!」
「ふふっ、なにそれ ほら、もう帰ろうね」
「ちぇー、また明日も来ますからねっ!」
「はいはい、じゃあね」
「はいっ!また明日!」
青葉君が去った部屋で僕は一人
「また明日…か」
と呟いた。
僕に明日など保障されてるのだろうか
つい先日、先生から「あと一ヶ月持つか解らない」と言われた僕に
自分はもうあと少ししか生きられないと言われたのに
あぁ、僕は死ぬのか。
とひどく冷静な事しか思わなかった…
いや、ただ実感がわかなかっただけだろう
カーテンの隙間から見える月を見ながら
一人、孤独な夜を過ごした。
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翌日も昨日と同じ朝を迎えた
いつも通りに青葉君が外の話をしてくれて
面会時間ギリギリまで側に居てくれて
また今日を終える。
今までと違った事といえば
青葉君の目が少し腫れていたぐらいで、本人は「ちょっと喧嘩して殴られちゃいました」と言っていた。
その1週間後、僕は突然の発作で倒れた。
次に目が覚めた時には
月明かりだけが部屋を照らしていた。
しかも、倒れてから1週間も眠っていたようだった。
僕は、ふと何か違和感を感じ
いつも隣にいたはずの彼の温もりがない事に気付き
急に不安に襲われて僕は彼を探しに走り出した。
それでも発作のすぐあとのせいか数歩走っただけで
動けなくなってしまった。
その後見回りに来た看護婦さんに見つかり、
部屋に連れ戻された。
机を見るとカーテンから零れる月光に照らされている手紙を見つけた。
嫌な予感がしたが今抱いている憶測を否定したくて、その手紙に腕を伸ばした。
(帝人先輩へ)
(勝手にいなくなってすみません)
(俺のこと探しましたか?探してくれてたら嬉しいななんて…)
(実は先輩に伝えなきゃならない事があるんですよ)
(俺、居なくなっちゃうけど先輩は生きてください。)
(俺は…いつまでも先輩の側にいますから)
(あと、ずっと言いたかった事があるんです)
(俺、先輩を愛してます。)
手紙にはそれだけ書かれており、僕は居なくなってしまった彼を想って声を上げて泣いた。
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ピピピピ ピピピピ
「んっ…」
目覚ましのベルによって起こされた僕は時間を確認しようと時計を見ると…
「えっ!?もうこんな時間!?やばい!遅刻する!」
ドタバタと慌ただしく用意をして急いで部屋を出た―
あの日から僕の体調はとても良くなり、今では普通に学校に通えるまで回復した
それでも、彼を失って心に穴が空いた日々は辛かった…
泣いても泣いても泣き足りなくて、その時にやっと彼に対する想いを理解したのだ
僕も彼を愛していたということを
それから立ち直るまで半年かかってしまったが今では普通に彼の写真を見ることもできるまでになった
そして何より彼はずっと僕の側に居るのが心強かった
だから僕は彼と居るために生きるのだ
ねぇ…ずっと一緒だよね
― そうだよね?青葉君 ―
僕はそっと胸に在る傷跡に問いかけた。
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