「……待て、フィディオ。ここでは、」
「え?何?」
スタジアムの控え室前の廊下、少しヒンヤリとして薄暗い場所で私はどうして冷たい壁に背を付けているのだろう。
どうして目の前の、自分より幾分か背が低い相手によって…押しけられているんだろうか。
今更距離感をどうこう言いたい訳ではない。
それよりもどうして彼は今まで見たことのない表情を浮かべ、強く、人を射る目で私を見つめているのか。
口元は辛うじて弧を描いていても一切雰囲気を和らげてはおらず、逆に陰湿さを滲み出して。

思い出そうとしても、彼がこうして怒る原因を作った記憶は欠片も無かった。
ゆっくりと延びてきた掌が頬に触れた。冷たい感触に眉が寄る。
「ッ、言わなくても解っているだろう」
「解らないよ」
「一体何なんだ?何があったかは知らないが八つ当たりもいい加減に…!」
「解らないよ、エドガー。君の気持ちは」
「……ッ!」
会話にならないやりとりが静かな空間に消えていく。
突然言われた言葉に、らしくもなく体が揺れた。


「君は、言い訳をしてるよね?」
「…言い訳?一体何の事を言っている」
「君は俺との関係をどう思ってるの?」
「それは」
「それは?『俺に推し流されるまま不可抗力で仕方なく』?」
感情がない声音で発せられた言葉に、咄嗟の否定が出なかった。
違う。一言そう言えば、いや言うべきだったのに。

完全にタイミングを逃したその言葉は、喉に停滞してぐるぐると回っている。
不快なその状態に更に眉が寄り、無意識に相手を睨んでしまう。
「ねぇ、エドガー」
頬から首筋に流れていく手の感触。
「求めていたのは、」
ゆっくりと力が籠もる。
吸い込まれる様な碧の目が、近付く。
「…俺じゃなくて、君だよね?」
「ン、ンンッ…」
抵抗を忘れて自分の唇に触れた彼の体温は未だ力を込め続ける手とは比べものにならない程熱かった。
そのまま貪るような口付けを受けながら、私は次第に苦しくなる呼吸と狭まる視界を最後に意識を飛ばした。


嗚呼、そうか。
罠に掛かったのは私じゃない。
罠を掛けたのが私だった。




罠に掛かった、
(どっちが?)

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なんか病んでる。何故だ。
本当はもっとこう…別の方向に持っていきたかったんだけどアレッ
そして作りかけて99話見ちゃったもんだからユニコーンにヒャッフゥしてしまって完成遅れたっていうね。
次は明るい話にしようと心に決めた5:45分早朝。



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