小説 | ナノ
 「夜勤明けとコンビニとスポドリ」

「へいいらっしゃい」

「店が違うだろ」


「本当に来るとは
思ってなかったからさ〜
やはりこれは運命なのでは?」


「偶然だ!
こんな運命があってたまるか!」


私がサッカー部の練習を
見学しに行ってから、2日後。

なんと、
ヤンキー君が
私の職場のコンビニに来ました。

ここまで偶然が重なると
本当にちょっと運命信じちゃう。

言ったらお約束通り
叩かれたけど。

雷門のジャージ着てるけど、
流石に朝練はまだだよね?

「ランニングのコースなんだよ
この辺りは」

「一駅先が……
ランニングコース……だと?」

ちなみに稲妻町から
このコンビニまでは電車で一駅。

そして、
ランニングって言ってたのに、
全然息乱れてないんですがそれは。

「成る程ね〜!
流石デスのソード使える子は
言う事違うなあ、あいたっ!」

「へらへら笑ってないで
商品通せよ店員」


現在時刻は5時半。
フロアは私1人。

店内に他のお客さんが
いないのをいい事に、

いつものふざけた調子で話したら、

今度は
持ってきたスポドリで頭を叩かれた。
地味に痛い。

「はいはい通しますよーだ」

「お前本当に社会人だったんだな」

「そうだよ!!!

あ、そういえば
あれから調べたんだけど、

雷門ってこの間地区大会で優勝して
これから全国大会なんだねー」

「ああ。
………!」

「ん?」

あれ、何故か
ヤンキー君が固まった。

どうしたんだろう、と首を傾げると
「なんでもない」と返された。

え、何今の意味深な沈黙。
凄く気になるんだけど。

「はい。

じゃあ、お代は
あなたのとびっきりのスマイル(0円)
でお願いしますね。」

「は?」

「前来てくれたら、
奢るよ〜って言ったじゃん。」

「いや、言ってた様な気もするが……
なら、スマイルってなんだよ」

「ヤンキー君の笑ってるとこ
見た事ないなあっていう
個人的な願望かな」

「自分の行いのせいだろ」

冗談だよーと笑うと
ヤンキー君は
なんとも言えない表情になった。

「はい、じゃあどうぞ」

とりあえず
この会計は保留にしておいて、

袋に入れたスポドリを
ヤンキー君に差し出す。


ここに来たのは
ただの偶然だろうけど……。

いや、だからこそ
こういう時に
大人の余裕を見せないとね。

ほら、出会いが……出会いだから……。 

「ふぁぁ……」

クソデカ欠伸が出ちゃった。
やっぱり夜勤はキツいな〜

次は頼まれても
もう入らないぞ店長。

「品性のカケラもない欠伸だな……」

「そこまで
言わなくてもよくない??

今のはヤンキー君が
受け取ってくれないから
手で抑えられなかったの!

ほら飲め飲め!」

「酔っ払いの親父か」

「それはちょっと思った」

前に突き出すと、
ヤンキー君はやっと受け取ってくれた。

こんな事なら
変なボケ入れずに渡せば良かった。くそう。

「……よく見たら凄い隈だな」

「こちとら
今日は寝てないんじゃい。」

「夜勤か」

「いいかい、ヤンキー君。

24時間営業はね
誰かの睡眠の犠牲の上に
成り立ってるんだよ。」

「そりゃあご苦労様だな」

「今日は断れなくて、
たまたまだけどね〜

普段も
この時間は働いてるけど」

「ふーん」

「相変わらず
めっちゃ興味無さそうで笑っちゃうな」

「笑うのかよ」

「まあ、でもヤンキー君にも
またこうして会えたし
そこは良かったかなあ〜」

本当にもう会う事ないだろうなーと
思ってたから、

入ってきたところを見た時は
結構驚いたんだよ。

「そうーーー、
驚きで挨拶が
別のお店になっちゃうくらいには」

「いやそうはならねえだろ」

「へいいらっしゃい」

「もうつっこまないぞ」


最後に私の渾身のボケに
ツッコミを入れると、
ヤンキー君は袋を持って
出口へ歩いて行く。


「ランニング頑張れ〜」

「……ちっ」

「聞こえてるぞ!!!」

「お前は帰ったらさっさと寝ろ」

「へ?」

最後に
予想外の台詞を残して
ヤンキー君は出て行った。

「ん?」

あれ、ヤンキー君って
まさかの癒し枠なのでは?

眠気は凄かったけど、
気は楽になった夜勤明けの朝だった。



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