「アンバランスな失恋」


※士郎君がいい奴じゃないです

※アツヤ君が出てきてますが、
戦神世界線じゃありません

※凄くふんわりですが、
そういった描写があります。












《本当になまえちゃんは可愛いね》

吹雪先輩の優しいあの声と
背後で聞こえる甘い声が

頭の中で混じり合って、
吐き気が込み上げる。

「……うぇっ、」

体にも心にも
栓をする様に、口元を手で抑えた。

こんなの、
何処かでわかっていたのに。

でも、
いざ目にするのとは
全然違った。

甘い声に紛れて、
時々聞こえる喘ぎ声は、
間違いなく吹雪先輩の声だ。

今迄何度も聞いて、
何度も心の中で反芻させていたのだから
間違えるはずがない。

そう、後ろの空き教室で
吹雪先輩は知らない人と
《そういう事》をしている。

「……はは、」

去年委員会で一緒になってから、
何かと私に優しくしてくれた吹雪先輩。

その優しさに
私はころっと恋に落ちた。

《本当になまえちゃんは可愛いね》

この言葉に
恋の色が一切滲んでないと気付いたのは
いつだっただろうか。

年下の、
妹のような扱いをされていると
気付いたのは。

でも、気付いても
私は諦めきれなくて、

必死に背伸びをしてみた。
身だしなみに気をつけたりとか、色々。

だけど、
その結果がこれだ。


ーーー吹雪先輩に恋人はいない。

そもそも、
恋人を作った事がないそうだ。

先輩に告白して振られた同級生が
そう言っていた。

それを聞いて、
何も出来ない自分が惨めになった
と同時に凄く安心したのを
よく覚えている。

じゃあ、後ろのこれは?

《吹雪ってさ、
裏で結構遊んでるらしいぜ》

何処かで耳に挟んだ噂話が
頭を過ぎる。

本当かは分からないけど、
でも私はーーー直感的に
遊びなんだと思った。

私の好きな吹雪先輩は、
そういう人だった。

それだけの、話。

けど、だからといって
すぐに嫌いにはなれない。

「……先輩の、馬鹿!」

後ろに聞こえる様な大声で
そう言い捨てると、

私は来た道を戻った。


「はぁ……はぁ……っ」

誰も寄り付かない倉庫まで来て、
やっと足を止めた。

そして、
校舎に向かってこう叫んだ。

「吹雪先輩の馬鹿ーー!!
女たらしーーー!!!!」

負け犬の遠吠えかもしれない。
でも、言ってやらないと
気が済まなかった。

それに、あの人と遊びじゃなくても
私にこんなに優しくする時点で
たらしなのは確実だし。


「だからやめとけって言っただろうが」

「へ?」

虚しい独り言、泣き言。
だから、返事なんて
返ってこないはずなのに。

後ろから聞こえる、
この先輩によく似た声は一体?

「うっわ不細工な面だな」

「げっ」

「げっ、ってなんだげっ、って!
兄貴じゃなくて悪かったな!」

後ろを振り向くと、
そこには吹雪先輩によく似た、


ーーー双子の弟のアツヤ先輩がいた。


「はっ、その顔だと、
とうとう兄貴のそういうとこ
見ちまったって感じか?」

「………」

「はー……兄貴は王子様なんかじゃねえって
散々忠告してやったのによー」

アツヤ先輩は
今年から私と同じ委員会で、
(去年が吹雪先輩と一緒だった)

私の気持ちに
気付いている唯一の人でもあった。

なんでも、
《兄貴に恋してる奴の顔って
みんな同じだから分かりやすい》らしい。

それを言われた時、
私は物凄く腹が立って
《最低!》ってお腹に拳を入れた。

元々、
自分勝手な性格が好きじゃなかったけど
さらに嫌いになった。

でも、あっちは
一旦怒りはしたけど、

それ以降何かと私にちょっかいを
かけてきた。

さっき言ってた事とか、
まだ好きなのかよ〜とか
吹雪先輩といると横から入ってきて
一々声をかけてきた。

「ほっといて下さい。
むしろ、せいせいしたんじゃないですか?」

「はあ?」

「盲目に恋する私が嫌だったんでしょう?
安心して下さい。

流石にもう、
今迄みたいな態度をとる気は起きません。」

「なんだ、お前
兄貴が嫌いになったのかよ」

「……なめないでください!!
嫌いになんてなりません!!

ただ……分からない、って思います」

そういうことをしていても、
私に向けられた優しさは
本物だったと思う。

しているからと言って、
優しさが嘘にはならない。

「んー……まあ、
お前には分かんねーだろうな」

「どうせお子様ですから」

「失恋したばっかのなまえに、
一個いい事教えてやるよ。

兄貴はな、案外臆病なんだよ。
要するに、1人に決めたくねーの。」

「だからって、」

「決めて、
そいつに嫌われんのが怖いんだよ。

だから、あんな風に
ふらふらしてる。

まあ、ああいう事すんのは
それだけの理由じゃねーと思うけど。」

「そんなの、知りません!!」

「へ!?」

「怖いから、
本気で好きでもない人とあんな事して、
誤魔化してるっていうんですか!?

それで!?
私もその1人!?
いや、その中にも入れませんでしたけど!」

「お、おい」

「でも、優しいのは
嘘じゃないんでしょう!?」

「お、おう。
兄貴は大体素で本心っつーか、

遊んでる奴にも
後で申し訳なくは思ってるだろうな……。」

「なんですかそれ!!
狡いです!!

決めました!私、吹雪先輩に告白します!」

「は、はあっ!?」

このまま、遊ぶ相手以下で
終わるのなんて嫌だ!

そうなるくらいなら、

最後に気持ち全部ぶつけてから
堂々と振られてやる!

「それで、言ってやります!!
私吹雪先輩の妹になんか
なりたくなかった、って!
後、そういうところはどうかと思うって!」

「おーおー……
なんか火ついちまってるな……
悪りぃ兄貴……」

「というか、アツヤ先輩も
分かってるなら
なんとか言ったらどうですか!!」

「え、なんかこっちにも
飛び火してきた」

「この兄にして弟って事ですか〜〜!!」

「おっ、お前、
言ってくれるじゃねえか!!

それさえ見抜けなかったやつが
何言ってんだよ!!」

「なんとなく分かってましたーー!!
ただ、その、
実際に見たら、やっぱり、
ショックが、デカくて……」

そこで頭にさっきのあの声が浮かんで、
やっと我に返った。

怒りと意地から解放された心が
抑え込んでいた悲しさを
引っ張り出してくる。

「じ、実際に見たって、お前」

「……空き教室で、してました」

「あ、兄貴……それは……」

「ちょっと、吐くかと思いました」

涙のせいで
絞れていく声を無理矢理張り上げる。

ここで、
アツヤ先輩の前で泣きじゃくるのは
なんか、癪だった。

「あー……その、なんだ。
……はあ……、
お前もそんだけ度胸あんだから
兄貴以外にもいい男見つけられるだろ。」

「……アツヤ先輩に言われても、
嬉しくないです」

「か、可愛くねーやつ!」

「ねえ、アツヤ先輩」

「あ?」

「もし、私が同い年だったら
何か変わったんですかね。」

遊び相手くらいにはなれた?
でも、それじゃ意味がないし、先がない。

もう、よく分からない。

でもひとつわかるのは、
後輩って立場が
一歩でも先に行くのを止めてるって事。

「ん〜、まあ今よりは
可能性はあったんじゃねえの。」

「もう少し言葉を
オブラートに包めないんですか」

「聞いてきたのお前だろ!
あー、でも分かんねえ。

俺、後輩のお前しか知らねえし。
同級生のなまえとか、全然想像出来ねえし。」

「喧嘩売ってます?」

「違えよ!

だから、その、
後輩のまま頑張るしか
ねえんじゃねえかって事だ!」

「アツヤ先輩って本当、
乙女心分かってないですよね……

頑張っても、ダメだったから
こうなってるんじゃないですか……」

「はっ、何がダメだ。
まだ告白もしてねえだろうが。

諦め事言うならその後にしろよ」

「うっ」

地味に痛いところを突かれて、
反論の言葉を見失う。

そうだ、
私まだ何もしてない。

なのに、ここでウジウジと
アツヤ先輩に八つ当たりみたいな事して、

凄く格好悪い。

告白するんだ。
みっともなくても、全部ぶつけてやる。

「分かりました、
お兄さんへの文句は
告白した後に言いにいきます!」

「えっ、」

「首を洗って待ってて下さい!」

「いやそれ言葉の使い方違、」

「じゃあ、失礼します!!」

そうと決まったら、
何を言うか、伝えるか決めなくちゃ。

打倒・吹雪士郎!

……って、あれ?違う?



「……こっちの話も聞けよ。バカなまえ……。
あー……くそ、
なんでいつも兄貴の事が好きな奴を
好きになっちまうんだよ俺ー……」

 

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