「オレンジ色に重なる影」


「…あれ?どうしたの?」

部室の外に出ると、看板のすぐ横に豪炎寺君が立っていた。私に気付くと、壁に預けていた背中を戻してこちらに向き直る。

「今日のHRでこの辺で不審者が出るって言われてただろ。」

「あ……」

そういえば、とHRで言われた内容を思い出す。なんでも、帰りの女子生徒に声をかける不審者が最近この辺りで出没しているらしい。逃げれば追いかけてはこないけど、まだ捕まってはいないので、女子は帰り道は出来れば1人で帰らないようにと注意された。

その時から頭の片隅にはあったけど、練習が始まったらそっちに集中してしまって、今の今まですっかり抜けていた。

「でも私家近いし、通る道も人通り多いから」

「そういう問題じゃない」


私の返事に、豪炎寺君の眉間に皺が寄って眼光が少し鋭くなる。その迫力に次の言葉が詰まった。心配してくれてるのは分かる。豪炎寺君は優しい人だから、近くまで送っていくと言おうとしていたんだろう。

でも、豪炎寺君の家と私の家は間反対。
それに今日の練習は特に厳しかったから、普段表情を変えない彼も今日は顔に疲労の色が少し滲んでいて。次の大会まであと一週間。
そんな時に負担はかけたくない。

「は、走って帰るから!」

「だからそういう問題じゃないだろ!」

「えぇ…でも、」

「なんでこういうところは頑固なんだお前は!」

頑固なのは豪炎寺も大概だと思う、と言おうとして飲み込んだ。誰かに助けを求めたいけど、他のみんなはもう帰ってしまって、多分今校内にいるサッカー部の人は私と豪炎寺君だけだ。私の家は学校から本当に近くて、走ったら5分もかからない。

「…悪い、言い過ぎた。」

「え、いや、私もごめん……」

どうしよう。このままじゃ堂々巡りな気がする。これじゃ、さらに疲れさせてるだけだ。
でもなんて言えばいいのか分からない。
この流れで「じゃあ送ってくれる?」って言うのもなんだか、こう。恥ずかしいし、違う気がする。

「俺が、心配なだけだ」

「へ?」

頭上から聞こえた言葉に、俯いていた顔を上げる。豪炎寺君はまだ少し厳しい顔をしていたけど、赤い夕日のせい?頬が少し赤く、見えた。あれ、もしかして。今は怒ってるから厳しい顔をしているんじゃなくて。


「だから、一緒に帰ってくれないか」

「ーーー。」

照れ、てる?

「……おい、何か言ってくれ。」

「へ!?
あ、じゃあ、お願いします」

「おう」

照れくさそうに、でも優しく微笑む豪炎寺君に、やっぱり叶わないなあ、と思いながら、私は「ありがとう」と言って笑い返した。


そこからの帰り道。ふと後ろを向いた時。
私と豪炎寺君の影が一瞬手を繋いでいるみたいに見えた。慌てて振り返ると、瞳に眩しいくらいの赤い夕焼けが差し込んできて、なんだかちょっと泣きそうになった。

私の表情の変化に気づいて、「どうした」と心配してくれる彼に、もっと泣きそうになった。

 

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