「塀の向こうの少年」






「え、連れて行って、くれるの…?」

「うん」

男の子は塀の上から私の前に着地すると、
意地悪そうに笑った。

でも、意地悪そうだけど
この時の私は
むしろ、優しい笑顔に見えた。

「君の気が済むまで、一緒に
逃げてあげる」

「え、じゃあ、
私の気が済んだら……もう、
会えなくなっちゃうの…?」

かけられた言葉に対して
思い浮かんだ疑問をそのまま返すと
男の子はさっきと違って
大きく笑った。

「じゃあ、こうしようか。
僕と君の気が済むまで
一緒に逃げよう」




「…懐かしい夢」

夢の内容は覚えているのに、
もう脳裏にあの男の子の顔は
浮かばなかった。

子供同士の、甘い約束。
でもそれが今まで私の宝物だった。

あの時、すぐに彼の手を取っていれば
良かったんだろうか。

そうすれば、
こんな外国まで来て
家の財産を狙う連中から
逃げ回る羽目にならなかったのだろうか。

ああ、
財産権なんて放り出してしまいたい。
でも、放り出しても
放り出さなくても
私はきっと近いうちに死ぬ。
殺され方が違うだけ。

でも、私をここまで逃して
生かしてくれた家族の為に
少しでも生きられる可能性を探したい。

今ここに独りな時点で
絶望的なのは、分かっているんだけど。

なんとなく、
外が見たくなって
ベランダの扉を開ける。

そこには月光と
月光に照らされた人影が1つ。

「……こんばんは、
私を殺しに来たの?」

顔は見えないけど、
両手に持っているものが武器である事は分かる。

「僕に君を殺す理由はないよ。

君を連れて逃げる約束はあるけどね」


「え…」


その人と視線が合った瞬間、
脳裏に蘇ったのは
さっきの夢の記憶。

そして、
雲がかかって思い出せなかった筈の
あの男の子の顔。

「…ああ、自己紹介してなかったんだっけ。
雲雀恭弥。好きに呼んで」

「え、」

姿も格好もあの頃とほぼ違う。
でも、私を射抜くその鋭い瞳は
何も変わっていなくて。

あの男の子だ、って確信があった。

「君の親族の守りの手厚さには
流石に骨が折れたけど、
まあ、こうして五体満足で
生かしてくれてたから文句はないかな。

ほら、呆けてないで
早く僕の手を握れば?

君と僕の気が済むまで
一緒に逃げるって約束
これから果たすんだろう?」



 

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