「豪炎寺君……なんか最近、やつれてるけど……大丈夫……?」


そこからまた数日後。友人のお陰で今の所、親衛隊の方々に校舎裏に呼び出される様な事態は免れている。これで平穏な日々は暫くは続きそうだな、と思っていたら、今度は。

「やっぱり……そう見えるか……?」

豪炎寺君の方に変化があった。一昨日からというものの、終始疲れた様子で授業も船を漕ぐ事が多くなった。手を抓って、無理に目を覚まさせようとする姿はちょっと見ていられない。

しかも、彼の場合絶対私の様に夜更かしとかではない筈だ。サッカー部は順調に地区大会を突破し、全国大会も勝ち進んでいる。
これはーー豪炎寺君から聞いた話だ。

あの日から、豪炎寺君はちょくちょくサッカー部の話をしてくれる様になった。サッカーの話をする彼は夕香ちゃんの話をしている時と同じくらい嬉しそうで、あの時どうにでもなれでも、本音を言ってみて良かったなと思ったくらいだ。

でも、その話をする回数がさっきの通り、一昨日から少なくなっていた。小休憩の時間はいつも死んだ様に眠っているし、授業開始1分前でも寝ているから慌てて起こしたのももう片手じゃ足りないくらい。目に隈はないものの、顔は明らかにやつれていた。

理由は多分、サッカー部の練習だろう。
全国大会と地区大会では敵のレベルも違う、と言っていた。豪炎寺君は前の学校で全国大会まで進んだ事があるらしいし、だからこそ気合が入っているんだろうな。

ただ……そんな経験者の豪炎寺君がここまで疲れる練習って一体どんなものなんだろう……?

「授業始まる1分前になったら起こすから、それまで寝てなよ」

「ああ……悪い、頼む……」

糸が切れた様に机に伏した豪炎寺君に、あの日の自分の姿が重なって、私は何か出来る事はないかなと、胸を抑えながら強く思った。


「あの、ちょっといいかな?」

「え?」

午前の授業が終わって、お昼休みの時間。友人は委員会の集まりがあるとかで、今日は一人で食べていた。ちなみに隣の席の豪炎寺君は十分くらいでお弁当を食べ終わって、また机に顔を伏せて死んだ様に寝た。その姿を見て、5分前になったら起こそうとか思っていたら、不意に後ろから声をかけられた。

振り向くとそこにいたのは、クラスメイトでサッカー部のマネージャーでもある木野秋ちゃんだった。

「木野さん」

「あ、えと、こんにちは。」

「こ、こんにちは。」

木野さんとも円堂君と同じ様にほんの数回しか話した事がない。円堂君という前例を思い出して少し嫌な予感を感じながらも、丁寧に挨拶をされたので私も挨拶で返す。木野さんは次の言葉に困っているみたいで、何か話そうとしては口を閉じて、視線は私と隣の豪炎寺君を交互に見比べていた。

「あー、えと、豪炎寺君なら多分授業始まるまで起きないと思うよ……?」

「そ、そっか!」

「うん。なんか最近練習が厳しいのか疲れてるみたいで、」

と、そこまで言いかけて我に返る。みんなの練習のサポートやなんなら練習メニューに携わっているかもしれないマネージャーの前で
私はなんて口の利き方を…!!大して知らないのに「厳しい」なんて言っちゃって、何様だよ私!

冷や汗をかきながら、次に続ける言葉を考えるも真っ白になった頭では何も思いつかなくて、今度は私が豪炎寺君と木野さんを交互に見比べてしまった。

「そっか。うん、そうだよね。
あの、みょうじさん。」

けれど、木野さんはそんな私を見て、引く様な態度を取るわけでもなく、ふわりと優しく笑った後、少し距離を詰めてきた。

「え、な、なんでしょうか。」

箸を置いて、私も姿勢を正して少しだけ距離を詰める。すると、木野さんは小さい声でこう耳打ちした。

「豪炎寺君ってあんまり弱音とかそういうことを話したがらなくて。余計なお世話なのは分かってるんだけど、その、心配で……。
私達に言えない事も仲の良いみょうじさんになら話してるかもって円堂君が言ってて、それで……」

えっと、木野さんの言った事を含めてまとめてみると。最近練習が厳しくなってて、でも豪炎寺君は弱音とか話したがらないから、どうなのかなと思って、円堂君の言葉を受けて、私に声をかけてきたって事……だよね……?

確かに豪炎寺君は弱い所見せたがらなさそうだなあ。この前は、場の勢いというか、そういう流れだったから話しただけで、帰り道はずっと照れ臭そうにしていたし。

「えっと、木野さん?」

「う、うん!何かな!」

「私確かに豪炎寺君とは話すけど……それは隣の席だからだし、円堂君や木野さんが思っている程の関係じゃないと、思う。」

あ、私今凄く嫌な言い方をしてる、と話しながらうっすら思った。でも、変な誤解はされたくない。豪炎寺君と関わりの深い子には特に。木野さんがそういう子って思ってるんじゃなくて、もし円堂君や木野さんから豪炎寺君に私の話がいった時に、否定されるのが怖いんだ、私。そう、これは私の為の予防線だ。

「あ、その、豪炎寺君が嫌いとかじゃなくてね!えと……ご、豪炎寺君からは……練習がキツイとか、そういう事は聞いてないよ。むしろ、いつもサッカー部の事嬉しそうに話してるし……」

木野さんが聞きたかったのは多分、こっちの内容だ。私がどうとか、なんて本当にどうでも良かった。言った後に凄く後悔した。

「そ、そっか!ありがとう、突然ごめんね」

「ううん、この前の円堂君も突然だったし」

また言わなくていい事を言ってる。今、豪炎寺君の方を見れない。

「あはは、ビックリしたよね。」

「うん、でも円堂君って凄く仲間思いなんだなって思ったよ。」

「うん、そうなの。ありがとう、それじゃあ」

委員会から帰ってきた友人が頭を叩いてくるまで私は固まっていた。ご飯を食べる気にならなくて、ずっとさっきの自分の言動についてぐるぐると考えていた。

勿論、授業前に豪炎寺君を起こす事は出来ず、この日、初めて豪炎寺君は先生に注意をされた。



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