「なあ、お前最近豪炎寺と仲良いよな!」
嵐の様に現れたその人は爆弾を私に投げ込んできた。友人にからかわれた日からまだ2日しか経っていない。豪炎寺君との気まずさも落ち着いて、やっと以前の様な感じに戻れた矢先のことだった。
その人の名前はーー円堂守。
クラスメイトで、豪炎寺君が所属するサッカー部のキャプテン。私は彼がーー少し、いや結構苦手だった。話した事は2年になってから、プリント配った時とかそれくらいの片手で足りる程度。そんな円堂君が、何故か!お昼休みに!友人とお弁当食べてる時!話しかけてきた!しかも、大声で!
「私に助けを求めるな」
「え、いや、でもぉ……」
「あれ?違うのか?そうかな
って思ったんだけど」
「そうだとしても、円堂あんた突然過ぎ。普通のやつはいきなり大声で話しかけられたら、この子程じゃないとしてもビビるわ」
冷たくあしらいつつも、フォローに入ってくれた友人に心の中で拝んだ。友人の言葉を受けた円堂君は「ごめんな」と素直に謝ってきて、私はさらに言葉に困った。
「あ、いや、別に……私こそごめん……」
「なんでみょうじが謝るんだよ!
悪いのは俺だろ、驚かせてごめんな」
「あ、本当!大丈夫なんで!はい!」
「ありがとな!やっぱいいやつだな
お前!」
優しい言葉と共にバシバシと遠慮なく背中を叩かれて、口の中に残っていた数粒のお米が気管に入った。咳き込みそうなところをすんでで飲み込む。うん、私は円堂君のこういうところがとても、苦手だ。良い人なのは分かってるんだけど、会話のテンポ、というか性格が根本的に合わないんだと思う。
円堂君は例えるなら太陽で、私はそこら辺に生えてる雑草だ。つまり、太陽の光を浴び続けたら干からびて死ぬ。
「いや、豪炎寺から最近お前の事よく聞くからさ。ちょっと気になって。」
「え!?」
「名前は出してないんだけど、内容聞く限りお前の事っぽいし。」
「ふぁい!?」
「クラスで豪炎寺がよく話す相手って俺かお前くらいだし。」
「確かに……」
「突然ごめんな!ちょっと気になっただけなんだ!やっぱりそうなんだな
」
「本当嵐の様に来て嵐の様に去っていったなあいつ」
「………」
せめてもの救いは豪炎寺君が教室にいなかった事か。成る程。だから、円堂君はいきなり聞きに来たんだろうな。いつもは一緒にご飯食べてるもんね。
いや、これはまずい。非常にまずい。
円堂君の声は結構でかい。まず最初の仲良いよな発言からまずい。この教室にいるクラスメイトは全員聞いただろう。さっきから視線がビシバシ背中に刺さってるもの。特に女子から。悪気がないって分かっていても、これはちょっと恨まざる得ない。
「親友が最近他の子の話をなったのが単に気になって、それで聞いてみただけって感じだろうね」
「だろうね……」
ああ、せめてこの学期は平穏に過ごしたかったのに。現実はそうもいかないらしい。
「まあ、腹括る良い機会じゃない?これを機にアピールしてけ!」
「無理!絶対無理!!」
こ、この……!!他人事だからって……!!げらげらと笑い出した友人に私は心から抗議した。それにしても、豪炎寺君私の話を円堂君にしてたんだな。それはちょっと……嬉しいかもしれない。
「百歩譲って私をからかうのはいいけどなるべく私を1人にしないでね!」
「そこはまあ、協力してあげる。あんた目離したらあっという間に潰されそうだもんね。誰にとは言わないけど」
「こ、怖い事言わないでよ……!!!」
ああ、また悩みの種が一つ出来てしまった。
片想いってこんな、危険を感じるような、波瀾万丈な感じだっけ……?もっとこう、叶わないからこそ、落ち着いてるものだと思ってたんだけど……。
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