《……その、豪炎寺はチームを離れたんだ。
理由は俺達にも分からない。そっか、みょうじにも言ってなかったんだな……》




頭が真っ白になった。
この後私は円堂君になんて返して、電話を切ったんだっけ?











数ヶ月前、ある学校から転校してきた
エースストライカー。
彼は私の隣の席だった。

当時の私はサッカーに興味がなかったから、
豪炎寺君が凄い選手だって事は知らなかった。

《……すまない、まだ教科書が届いていなくて……良かったら見せてくれないか?》

初めて会話をした時の事はよく覚えている。
転校初日の数学の時間。授業前に豪炎寺君は申し訳なさそうに私に声をかけてきた。

《いいよ》

《ありがとう》

優しく微笑んでお礼を言う彼に凄く驚いた反面、見た目に威圧感を感じていたから、思っていたより怖い人じゃないんだなって安心した。授業のグループやペアで何かと一緒になるであろう隣の席の人と気まずいのは嫌だったし。

そこから数日後、豪炎寺君はサッカー部に入った。顕著とまではいかないけど、その頃から表情が明るくなった。エースストライカーだったという噂を聞いたのもこの辺りだ。そして、授業以外で話す様になったのも。

「みょうじ。宿題、やってきたか?」

「やってきたけど……合ってるか自信はないなあ……」

別に、何でもない会話。授業が始まるまでの数分だったり、小休憩の時間にぽつぽつと雑談をする様になった。けど、豪炎寺君はサッカーの話はしなかった。私は聞かれたくないんだな、と思って、聞く事はしなかった。
でも、内心は凄く気になっていた。


「ねえ、豪炎寺君といつも何話してるの?」

「え?宿題やってきたか、とか。
妹さんの話とか」

「えっ、サッカーの話はしないの?」

「う、うん」

「意外!あんなに練習してるのに!」

ある時たまたま授業でペアになったクラスメイトにそう聞かれて、改めてはっとした。

なんで、サッカーの話をしないんだろう。
好きだからこそ、話したくないのかな。
でも、クラスメイトの男子に試合の事聞かれたら軽くだけど返してるよね?

そんなモヤモヤは日を重ねて内に、サッカー部が大会を勝ち進んで行くごとに強くなった。でも、気まずくなりたくないから、話しかけられたらいつもみたいに話した。

練習見に行ってみようかな、と思ったけど、
学校のグラウンドでは練習してないみたいで
行くのをやめた。学校だったらバレにくいけど、他のところじゃ目立ってしまう。

豪炎寺君と話すのは楽しい。
会話のテンポ?波長が合っているからか、なんでもない話でも楽しいし、私は一人っ子だから妹さんの話をする豪炎寺君に、変かもしれないけど、何処か癒されていた。


「妹さんって……交通事故で昏睡状態の?」

「え?」


一気に豪炎寺君の事が分からなくなった。
昏睡状態の妹さんの話を、なんで私にするんだろう?しかも、あんなに嬉しそうに。そのクラスメイトによると、豪炎寺君は他の子には話していなくて、事情を知ってる一部のクラスメイト達はタブーだと思っていたらしい。

サッカーの話をしない事と、妹さんの事。
同時に気になる事が出来てしまって、知ったその日の夜はほぼ眠れなかった。分からない、分からないよ。豪炎寺君。
豪炎寺君にとって、私は何?


「みょうじ。顔色が悪いぞ、風邪か?」

「ま、まあそんな感じかな……ちょっと眠れなくて」

「無理はするなよ、具合が悪くなったら俺に言え。自分から先生には言いにくいだろ?」

「はは、豪炎寺君私の事よく分かってるー」

逆は、絶対にありえないのに。
大丈夫、いつも通りに振る舞うのにはもう慣れた。それに、楽しくないわけじゃないし。
私が勝手に気になってるだけだから。

そう思ったら、さっきの自分のおどけたフリが急に虚しくなって、悲しくなった。寝不足っていうのは思ったより体に負担が来るらしく、その日の授業はノートは取っていたものの内容は全く頭に入ってこなかった。本当は寝てしまいたいけど、そうすれば豪炎寺君が心配するし、先生にもバレてしまう。その一心で、いつも通りに振る舞うのはやめなかった。


「顔色さらに悪くなってるぞ。保健室、行ってきた方がいいんじゃないか?」

「後1時間だけだし、大丈夫大丈夫。一応帰りには、保健室寄るから。」

「……そうか」

あれ、なんか気まずくなっちゃった。私そんなに具合悪そうなのかな。豪炎寺君との会話が気まずくなったのはこの時が初めてで、6時間目の授業はノートを取るのにも集中出来なかった。

HRが終わった後、豪炎寺君はすぐに教室を出る。1秒だって部活の時間を無駄にしたくないんだろう。私は気まずくなるのが嫌で、友達のところに逃げた。「また明日」と挨拶をしなかったのも初めてだった。


私だって本音を言えばそのまま帰りたかったけど、この日は委員会の集まりがあったのでそうもいかず。しかも、運の悪いことに委員会は先生の長話で予想以上に長引いて。教室を出る頃には朝からの倦怠感が強まったのに加えて、頭痛がし始めていた。

重いからって荷物を教室に置いてきたのを後悔した。ここから自分の教室までは2階分上がらないといけない。ちょっと上がって、座り込んで、またちょっと上がって。運の悪い事に、委員会が長引いたせいで校舎にはもう生徒があんまりいなくて、誰にも頼れずに時間をかけて階段を上がった。

「はあああ……」

教室に入った頃にはもう立っているのもしんどくて、一旦休憩、と私は自分の席に座って机の上の鞄に頭を乗せた。気持ち悪い。でも帰らなきゃ。だれか、通りがからないかな。
……豪炎寺君は今も練習してるんだろうな。
何、考えてるの。私。

ーー豪炎寺君が通りがかる訳ないじゃない。


「ーーみょうじ?」

「え……」

「まだ帰ってなかったのか。
!どうした!」

「あ、はは……」

これは夢だな、と思った私はそのまま目を閉じた。夢だと思ってても、今豪炎寺君には、
会いたいけど、一番会いたくなかったから。







馬鹿だなあ、私。練習はダメでも、試合なら他に観に来る人もいるだろうからバレずに見に行けたのに。……嫌だったのかな、見るの。私の知らない豪炎寺君を、知りたくなかった?

ああ、そっか。
絶対に格好いいだろう豪炎寺の姿を見て、惨めになりたくなかったんだ。なんで、こんなに熱中するほど好きなものをわたしには話してくれないんだろうって。私には話す価値も
ない、なんて豪炎寺君はきっと、思ってないのわかってる。これは私のワガママで、見栄だ。

期待したくない。
ーーせめて妹さんの事を私に話さなかったら、きっとただの一緒に話すのが楽しいだけのクラスメイトでいられたのに。


「……嫌だ……」

「みょうじ?」

「え?」

おかしいな、豪炎寺君の声が近くで聞こえる。まだ夢なのかな。でも、この感覚は目覚めた後の。不思議に思いながらも、重い瞼をゆっくりと開ける。いや、そもそも私なんでーー寝てるの?

「!」

嫌な予感と冷や汗を感じながら、とりあえず体を起こす。勢いよく起きたせいか、その反動で体を包む倦怠感が強くなる。同時にぐわん、と頭が揺れて、気持ち悪くなって、また目を閉じようとした時。

「急に起きるな!」

「え……」

衝撃的な光景が私の視界に入った。
私が寝ていたのは、保健室のベットで。
その隣にいるのはーー豪炎寺君だった。

「……なんでいるの?」

咄嗟に出た声は分かりやすく震えていた。情報としては頭に入っているのに、心が今の状況を理解しようとしない。豪炎寺君は私の知らないユニフォーム姿だった。

「お前、なんでってそれは……」

体調が悪くて、心も弱っていたんだと思う。その姿を見たら、心の奥がぎゅっと締め付けられて、堪らなくなった。ダメだ、と思っても、体は素直で。私の瞳からは段々と、涙が溢れ始めた。

「え、なんで泣くんだ……!?
何処か怪我でもしてるのか?」

「ちが、ちがう」

こんな汚い私を、見て欲しくなかった。
どうして、こんな事に。

一番見て欲しくなかった姿を見られて、涙は悔しさと情けなさでさらに溢れた。

「ごめ、なさい」

「……理由がわからないのに、謝られてもな……」

「うん……そうだよね、ごめんね」

「謝るな。そもそも、泣いて謝られる様な事を俺はお前にされた覚えがないぞ。」

「うん……」

「いや、結局保健室に行かずに、教室で気絶していた事に関しては謝って欲しいが」

じゃあ、意識が遠のく前に見たあの姿は、

「夢じゃなかったんだ……」

「ああ。どんな夢を見ていたかは知らないが、こっちが現実だ。全く……。」

「ごめん……」

「はあ……どういう事だと聞こうと思ってたいたのに、そんな顔をされたら、何も言えないじゃないか。」


豪炎寺君は表情は少し怒っている様ではあるものの、声は優しかった。倒れていたところをここまで運んできて、目が覚めたと思ったらいきなり泣き出した私に迷惑そうな顔をするわけでもなく。こうして会話を続けてくれる辺り、豪炎寺君は本当に優しい人だと思う。その優しさが、今はとても心に刺さる。

あれ、そういえば今って……。
そう考えたところで、私は重大で、一番大切な事に気付いた。

「!今何時!?部活は!?」

「だから急に動くな!」

「いや、でも、部活……」

そう、豪炎寺君はユニフォーム姿だった。そう私があの時教室に入ってきた豪炎寺君を夢だと思ったのは、部活中の時間だったからだ。もし、部活が終わったわけではなく、単に忘れ物を取りに来ただけとかだったら……。

「大会、近いんでしょ!?わ、私はもう大丈夫だから!」

「………」

「運んでくれて、ありがとう。ごめんね、迷惑かけちゃって。じ、実はね。本当にね、帰りに保健室寄ろうとは思ってたんだけど、委員会が長引いちゃって……教室に着いた頃には具合悪くなってて、あんな状態で……本当にごめんね。」

「俺は、」

「え?」

「そんな風に謝って欲しい訳じゃない!」


豪炎寺君が手でベットを強く叩く。衝撃がそこまで伝わったのか、ベットの下の金具が小さく鈍い音を立てた。豪炎寺君は、怒っていた。私を真っ直ぐに見据えながら。

「なんでそこで真っ先に俺の部活と自分の体調を比べるんだ!?しかも、なんで体調よりも俺の部活の方が大事な風な言い方をする!」

「豪炎寺君、あの」

「じゃあ、お前はあのまま放っておいて欲しかった、とでも言うのか!出来るわけないだろ!」

「違うよ、その」

「いいや、違わない!お前の言い分は俺の選択が間違っていたと言っているのと同義だ!
そもそも、なんでそうなる!人の命より大切なものがあるか!泣くほど辛かった癖に、こうなる前になんで俺を頼らない!」

「………」

《妹さんって……交通事故で昏睡状態の?》

昨日のクラスメイトの言葉が頭を過ぎる。きっと今の豪炎寺君はその妹さんと私を重ねているんだろう。

「お前にとって俺は頼る程の価値もないのか!」

「違う!」

「!」

「そんな訳ないでしょ!そっちこそ何でそうなるの!?私は……」

豪炎寺君には、

「いつも、笑顔でいて欲しいだけだよ……
好きな事は何より優先して欲しいし、妹さんの話だって、なんだって聞くよ!何時間でも!」

「みょうじ……」

「私は……その邪魔は絶対したくなかった……
今のままでよかった……。妹さんの話を私以外の人にはしにくいなら、いつでも聞こうって……私も聞いていて楽しいし……逆に話してこない事は聞かさないでおこうって……」

「話してこないって……もしかして、それってサッカーの事か?」

溢れてくる涙を手で払いながら、ゆっくりと頷く。ああ、言っちゃった。なんで、こうなっちゃうんだろう。逃げてきて、いい人を気取っていた私への罰?でも、悪い事じゃない筈。豪炎寺君が話してこないから、聞く必要もないし。これが、正解だった筈なのに。

「……そうだな、俺はみょうじに意図的にサッカーの話はしなかった」

「やっぱり……そうだったんだ……」

「話したくない、とかじゃないんだ。
なんて話したらいいか……分からなかった。」

「え?」

豪炎寺君がふう、と息を吐いて、椅子にまた腰を下ろす。私は言葉の意味が理解出来なくて、呆然と彼を見つめる事しかできなかった。

「……応援されてる事が嫌な訳じゃないんだ。ただその、応援の仕方に……少し疑問を抱く様な相手が前の学校にいて……。そこから、かな。意識的に異性を避ける……というか、話す機会を減らしていた。

失礼な事だとは思うんだが……あのままだと部活にまで影響して、チームメイトに迷惑をかける可能性があったから……。」

「………」

「別にそういう子ばっかりな訳じゃなかった。ただ雷門に入学した頃は、妹の事もあって……その気持ちがさらに大きくなっていた。さっきの言い方だと、聞いたんだろ?
夕香の事。」

「うん……」

「そこも含めて、一から説明するよ。まず、部活については気にするな。練習はもう終わってる。今日は監督の事情で早めに終わる日だったんだ。

そのまま河川敷から家に帰ろうとしたら、課題に必要な教科書を忘れてて、
教室に取りに戻ったら、みょうじがいたって訳だ。

だから、気にする必要はない。さっきは、怒鳴って悪かったな。俺の好きなもの……サッカーを心配してくれていたのに。」

「ううん……」

そんな風に謝られたら、何も言えなくなってしまう。全部私が悪いのに謝る必要なんてないのに。そう、豪炎寺はこういう人だから。私は迷惑をかけたくなかった。もう、遅いけど。

「まあその、そういう事情があって、転校したばかりの俺はサッカーについては話したくなかったし、腫れ物扱いされるのも、話しかけられるのも嫌だった。

だから、みょうじに教科書を見せて欲しいって話しかける時は緊張したんだ。どういう反応をされるか、って。あ、言っておくが、別に自分を有名人とか、そういう風に思っていたわけじゃないぞ。俺は自分が凄いとは思っていない。」

「うん……分かってるよ」

そんな風に思っていたんだ。じゃあ、あの時の優しい笑顔は安心からきたものだったんだ。

「話しかけた俺に対して、お前は笑って返してくれたよな。

……実を言うと、雷門には1人も知り合いがいなかったから、お前のその態度に凄く安心したんだ。今は違うだろうが、その時は俺のサッカーに関する事とか、全く知らなかったんだろ?」

「うん、お恥ずかしながら」

私は前の学校の豪炎寺の事を全然知らない。サッカーの事だって、凄いストライカーだったって事くらいしか知らない。でも、それは……今になっては、良かったのかもしれない。

「でもそれがあの頃の俺には嬉しかった。
夕香の話をしようと思ったのは……なんでだったんだろうな。理由は、上手く話せない。

ただ、ある時にみょうじにならいいかなって思った。……誰か1人、夕香の話を出来る人が欲しかったのかもしれない。事故以来、みんなその話題を避けていたから。

もう知っている可能性もあったし、
話す事で気まずくなるのは嫌だったから、
少し不安もあった。」

「え……」

理由は違うけど、でも気まずくなるのは嫌だって思ってくれていたんだ。それに、私ならいいって……最高の褒め言葉だなあ、と思った。豪炎寺君が私のどこを見てそう思ったのかは分からないけど、なんだか今までの悩みが報われた気がした。

「でも今思えば、何処かでみょうじならって甘えがあった。おかしいよな、本当情けない話だ。」

「そ、そんな事ないよ!」

もし、私だったらどうだろう。
妹や弟、兄や姉がいたとして。その人が眠ったまま目覚めなくなったら。周りが露骨に話題を避ける様になったら。事故に遭う前もその後も楽しかった思い出はきっと、変わらないのに。全部悲しくなるわけじゃ、ない筈だ。

「私、嬉しいよ。嬉しかったよ、豪炎寺君が私に妹さんの話してくれるのが。楽しそうに話す豪炎寺君見るの好きだし、妹さんの事、好きなんだなあって……。その気持ちは事情知っても知らなくても変わらないから……」

だから、

「話すの、やめないで」

急にあんなに悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった。豪炎寺君は私を信頼して、私になら話していいと思って、妹さんの話をしてくれた。なら、もう充分じゃない。それがどんな理由だっていい。その事実があれば、もういい。

「……ありがとう。」

豪炎寺君が私の手にそっと自分の手を重ねた。自分より一回り大きくて、ゴツゴツとした手に少しドキドキした。妹さんの手もこうやって優しく握ってあげたんだろうな。

「みょうじに夕香の話をしていくうちに、
……みょうじの事を知っていくうちに、好きなサッカーの事も話したくなった。

ああ、うん。最初だけだ。
サッカーについて聞かれたくなくて、話さなかったのは。

というのも、雷門に転校してきた時、俺はサッカーを辞めていたんだ。怪我とかじゃない。夕香が交通事故に遭ったのは……俺がサッカーをしていたせいだったからだ。」

「え、」

「だから、俺はサッカーを辞めた。今思えば、辞めたのは償いなんかじゃなくて単に怖かったんだ、俺は。でも、円堂に会って……サッカー部に入って、それは変わった。

そうだな……1ヶ月前くらいには、もうお前にサッカーについて話そうか迷っていた。
お前はそういう偏見を持つ様なやつじゃないって分かっていたしな。

けど、俺のサッカーの中には絶対に夕香の存在がある。だから……迷っていた1番の理由はそこなんだ。話していけば、絶対にいつか夕香の存在にぶつかる。俺はお前に夕香の事を偽って話したくはなかった。だが、正直に話せば困らせてしまうのも分かっていた。

話す事で、みょうじといつもの様に話せなくなるのが怖かったんだ。俺は。」

「………」

この事を私に話すのに、豪炎寺はどれくらい悩んで、今どれだけ勇気を振り絞っているんだろう。ああ、私本当情けないな。自分の事ばっかりで、豪炎寺君が私の事を考えて、話そうか悩んでいるのも知らずに。自分から聞きもしないで。

「えっ、おい…!なんで泣くんだよ…!?」

だって、おかしいよ。

「考えてみてよ。豪炎寺君。
私自身が自分の体調より、優先しなきゃって思うものをさ、

知りたくない訳、ないでしょう?
むしろ、知りたかったよ。」

「あ……」

「あはは、日本語変だね。
でも、なんて言えばいいのかな。

私もあえて聞かなかったから、おあいこじゃないかな。話してこないって事は聞かれたくないかなって思ってたし……話せなくなるの怖くて、聞けなかった。

でも、もう心配しないで大丈夫だから。私はどんな事を話されても別に、」

気にしないから、と言おうとした。でも、その前に腕を掴まれて、胸の中に引き寄せられて。言葉は心の奥に引っ込んでしまった。

「ありがとう」

「………」

「俺、みょうじの隣の席で良かった。
みょうじに会えて良かった。」

「どう、いたしまして」

「なあ、聞いてくれるか。
俺が夢中になるサッカーの事。
そして、サッカーをする俺をずっと応援してくれていた大事な妹の話をーー」


腕を回した背中は自分より大きくて、この背中に色んなものを背負っているんだなあ、と思ったら、切なさでまた涙が溢れてきた。

もうこの頃には、私はーー
豪炎寺君に恋をしていたと思う。





















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