土曜日。 帰宅部だけどやることあるし、みたいなことを口走りはしたが、休日は割と暇なのだ。友達と遠出することも滅多にないので、専ら家に篭ってゲームをしている。 しかし今日に限っては、制服を着て学校へと向かっていた。 休日の、それも昼前の電車はいつもとは違ってとても空いている。移動のお供はもちろんゲーム。 やっぱり、課題を自分の机の中に忘れていた。これを回収したらもう学校に用はないのだが。 (そういえばバレー部って言ってたよね・・・) ふらふらっと、体育館に足を伸ばす。 ボールが床に打ち付けられる、重たい音が響いてくる。 開いていた小窓から中を覗いてみる。・・・いた。 いつもとは違う真剣な面持ちで、ボールを追っていた。 研磨くんがボールを上げて、黒尾先輩が打ち込む。 たったそれだけのことに、目を奪われていた。 研磨くんも先輩も、バレーのときはあんな表情をするんだな・・・。 ふと、研磨くんと目が合ってしまった。 ど、どうしよう。取り敢えず手を振ってみる。 遠慮がちに手を振り返してくれ、黒尾先輩に何やら話しかけると先輩までもがこちらを向く。研磨くんが教えたようだ。 なんだか覗いてたことが恥ずかしくなり、ぺこりと頭を下げてその場を後にする。 「奈月ちゃん!」 よく知った声に振り返る。黒いTシャツ姿の先輩が走ってきた。 私の目の前で立ち止まると、いつものニヤリとした表情を浮かべる。 「目が合った瞬間逃げ出しやがって全く」 「えっ、そんなつもりじゃ・・・ごめんなさい」 「いや、この後時間ある?」 「特に用事はないですけど」 「じゃあ決まりだな。今日の練習昼までだからもう少し見て行けよ。その後飯でも行こうぜ、奢るから」 そう言えば、最近毎日お弁当をつまんでいくお礼をするって前に言ってたっけ。 「もちろん研磨も一緒だ」 「・・・わかりました」 「よし、じゃあこっちだ」 先輩の後に続いて体育館に入る。 他のメンバーが私も見て目を丸くする。恥ずかしい・・・。 灰色の髪をした背の高い男の子が真っ先に声を上げる。 「黒尾さん!!もしかして彼女っすか!?」 「えっ!?な、な」 「違う違う、研磨の友達だよ」 焦る私とは対照的に、笑って先輩はそう返すのだった。間違ってはいないのだが、なぜかとても関係が遠い人のように感じて、少し寂しくも思ってしまう。 「研磨!?おおおおまえいつのまにそんな、かかかかの」 「だから彼女じゃないって、友達」 研磨くんは面倒そうにモヒカンくんの相手をしている。 そこに黒尾先輩が、「ほらお前ら練習すんぞー」と声をかけると、いっせいに持ち場へと戻るのだった。 「んじゃ、着替えてくるからそこで待ってろな」 「あ、はい」 練習も終わり、黒尾先輩はそう言ってみんなと部室へ消えていった。 ぽつりと一人残されて、取り敢えず鞄からゲームを取り出し続きをプレイする。ティガの一匹くらい倒せるかな。 熱中したまま十数分後・・・ 「・・・へぇ、本当にゲーム好きなんだな」 驚いて目を上げれば先輩が画面を覗き込んでいた。 目の前に音駒高校バレー部の赤いジャージ。小さな画面を覗き込むには必然的に距離が近くなって。 「おい、これいいのか?」 「えっ、あっ!」 突進をもろに食らって、ゲーム内の私はその場に倒れた。 「あ、死んだ」 「クロが不意に話しかけるからでしょ」 後ろから研磨くんもやってきた。非難の目を先輩に向けている。 「あー、悪い」 「え、いや、気にしないでください。たかだか1死だし、目を離したのは私だし・・・」 「ゲームを忘れるくらい俺に見惚れたって?」 「な、そんなわけないじゃないですか!行きますよ!」 もう、なんなの!なんてプリプリしながら先に進む私を見て、ニヤニヤしてる一人と呆れている一人がいたとかいないとか。 |