合宿最後の夜。自主練もひと段落つけて、二人で夜風に当たっていた。

「あの、先輩」
「どした?」
「さん付けで呼んだ方がいいですか?」

一瞬ぽかんとして、それからくすくすと笑う先輩。

「なんだ、昼のこと気にしてたのか」
「はい」
「そうだな、それじゃ呼んでみてくれよ」
「黒尾さん・・・?」
「違う違う」

彼が振り返れば距離がつまる。優しく私の頭を撫でながら、静かに言った。

「俺の下の名前呼んでみて」
「ええっ」
「知らない訳じゃないだろ?」

勢いよく頷く。ちらりと見上げれば、私をじっと見つめる先輩の顔。

「鉄朗さん・・・?」

言った瞬間に、きつく抱き締められた。

「あっ、先輩」
「戻ってんぞ」
「え、でもこれはちょっと、恥ずかしい・・・」
「普段は先輩のままでいいから、二人きりの時は今度からそれで。な?」
「わ、分かりました」
「このままもう一回呼んで」
「・・・鉄朗さん」

抱き締める腕に更に力がこもる。

「く、苦しいです」
「おお、すまん」

解放されると、またも頭を撫でられた。
微笑まれて、微笑み返す。とても優しい時間だった。





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