屋上は、昼食時は生徒のために開放されている。ちらほらと生徒が座ってランチタイムを楽しんでいた。 入り口の裏側、せまくて陽の当たらない陰のところに腰をおろす。 隠れたい訳ではないのだが、あまり見つかりたくもない。そんな心境をあらわすように小さくなって座っていた。 なんでこんなことになったんだっけ。 お弁当箱を取り出して、包みを開こうとして手を止める。 ・・・私は何もしてないのに。 理不尽さを感じながら伸ばした手をおろした、その時。 階段を上がってくる足音。 扉が開く。そして聞き覚えのある声がする。 なんとなくバツが悪くなって身をひそめた。 「いないみたいだよ」 「だな・・・いや」 足音が近付く。目の前に、男の人の足。 顔をあげると、想像通りの二人の顔。 「見つけたぜ、奈月ちゃん」 「・・・ごめんなさい」 「別に謝らなくてもいいだろ。研磨、飯にしようぜ」 「うん」 そしてそのままその場で昼食となった。 黒尾先輩は、不思議な男だった。 「奈月ちゃんは部活入ってねーの?」 「はい、帰宅部です」 「へー、そうなんだ。帰って何してんの?」 「買い物に行ったり、勉強したり・・・」 「すげー、ちゃんと毎日勉強してんだ?偉い偉い。研磨も見習えよ」 「・・・余計なお世話」 私も、恐らく孤爪くんもきっとあんまり長々話すほうではないだろうに、なぜかこうも話を振られては返すことで、上手く会話が繋がってゆく。 しかもどちらかとの会話に偏るでもなく、ちゃんと三人での会話が成立している。不思議な感覚だった。 きっとこういう所がモテるんだろうな。ファンがつくくらいだし。 よくよく見れば顔もなかなかかっこいいかもしれない。 「どうした?奈月ちゃん。そんなに俺の顔を見て。もしかして惚れた?」 ふと目が合って、見つめていたのがバレた途端に胡散臭い笑顔になる先輩。焦って思わず目を逸らす。 「な、何言ってるんですか、違います!」 「おいおい、そんな力一杯否定しなくても」 「あ、えっと、すみません・・・」 「クロ、やりすぎ」 「悪い悪い、冗談だから気にすんなって。・・・しかし、帰宅部だと結構暇なんじゃねぇの?買い物ったって毎日じゃないだろ?」 「買い物と言っても夕飯の用意なので」 「え、秋原さんのご両親って・・・」 「うちは共働きで、どっちもすごく忙しいみたいだから、私がご飯作ってるんです」 「そうなのか。ってことはもしかして、そのお弁当って」 「私が作ってますよ」 「マジか」 言うや否や、黒尾先輩は私のお弁当から卵焼きを奪って口に入れた。 「あっ!えっ」 「ん、美味いわ。料理上手なんだな、奈月ちゃんは」 「いや別に、それほどでもないですけど・・・」 顔に熱を感じる。 なにこれ、何で照れてるの自分。 ってかこの先輩はそんな簡単に女の子を褒めたり勝手にお弁当を摘んでくるような軽いタイプの先輩だったの!? 訳がわからないまま昼食を終え、三人で屋上から降りていく。 3年の教室の前で、「じゃあ俺こっちだから」と黒尾先輩が言った。 「そうだ、奈月ちゃん」 「は、はい」 「お弁当美味しかったからまた一口食べさせてよ、今度お礼するから」 「えっと、いいですけど・・・」 「サンキューな!」 笑顔で教室へ戻っていった。 完全にフリーズしてしまっている私に、「秋原さん行こう」と孤爪くんが声をかけてくれ、何とか自分たちの教室への道を歩きだした。 「黒尾先輩ってなんていうか・・・変わった人だね」 「おれもそう思う」 簡単にオーケーするんではなかったと、やや後悔するのだった。 |