名残惜しそうにゆっくりと離される。
涙を袖で拭って先輩を見上げれば、決意を新たにした顔がそこにあった。


「それに俺は辞めねえよ、春高へ行く。そこでゴミ捨て場の決戦を実現させる」


私に、そして自分に言い聞かせるような、決意の一言だった。

「だから、今まで以上にサポート頼むぜ、大事な大事なマネージャーさん?」
「はい!!」



いつもの笑顔の先輩が戻ってきた。
私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
それがとてつもなく嬉しくて、また涙が溢れそうになったのは内緒だ。


「行くぞ、奈月」

そう言って片手を差し出される。
遠慮がちにその手に触れれば、しっかりと握り締められた。


・・・その時。


ドーン!と大きな音が、体育館入り口から聞こえた。
見れば、入り口付近で転がるメンバーたち。

「だから押すなって言っただろリエーフ、見つかったじゃんか・・・」
「夜久さん小さいんだから一番下で良いじゃないっすか!」
「んだとー!」

「秋原さんが・・・俺達の秋原さんが・・・」
「泣きすぎ・・・」

着替えを終えて戻ってきていたメンバーが、ばっちり覗き見していたのだった。


「何やってんだお前ら!」

黒尾先輩の叱咤が飛ぶ。
恥ずかしくて手を離そうにも、先輩がしっかりと握ったまま離してくれない。
夜久さんの蹴りから逃げ出したリエーフが叫ぶ。

「なんで黒尾さんなんですか!俺だって奈月さん狙ってたのに!」
「えっ!」
「誰がリエーフなんかに渡すかよ」
「えっ!?」

顔に熱が集まるのが分かる。

「クロ、離してあげなよ・・・なっちゃん顔真っ赤」
「けけ研磨くん!?」

ようやく離された手。先輩はぐるりと周りを見渡す。

「お前らそんだけ元気なら、明日からまた練習で良さそうだな」
「「はい!」」
「春高行きましょう!」
「ゴミ捨て場の決戦やるぞ!」

みんなにも笑顔が戻った。結果オーライかな。
もうしばらく先輩と一緒にいられるという事実に、幸せを噛み締めた。





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