今日もまた、研磨くんは「ちょっと用事あるから」なんて言って先に帰ってしまった。
・・・まさか気を遣わせてしまっただろうか?

黒尾先輩と二人で帰る。
そんなに長い距離ではないものの、恋い焦がれる相手と二人きりというのはそうそう慣れるものではない。

校門で他の部員たちに挨拶をしてから二人で歩き出した。


「なぁ奈月」
「はい」
「お前、俺に隠してることあるよな?」

その言葉に肩が跳ねる。ちらりと横を見ても、彼はまっすぐ前を向いたまま、表情を変えずに歩いている。
「黒尾さん、怒るとめっちゃ怖いんすよ」なんて言っていたリエーフの言葉が脳裏をよぎる。

「えっと・・・」

言葉が出ない。どう言い訳しても愛想を尽かされてしまう気がする。
先輩はひとつ溜め息を吐いて、切り出した。

「研磨から聞いた。上履きにいたずらされたんだろ?なんで黙ってたんたよ、何かされたら言えよって言ったよな」
「はい・・・実害もなかったし、先輩に迷惑かけるのも・・・」
「別にそんなことで迷惑なんて思ったりしねぇよ。それより奈月が辛い思いするほうが嫌だわ」

驚いて顔を上げる。こちらを向いていた先輩と、ばっちり目が合った。

「それとも、俺はそんなに頼りないか?」
「そんなことないです!私先輩に助けてもらってばかりで、甘え過ぎかなって・・・」
「考え過ぎ。大人しく先輩に頼ればいいんだよ」
「いてっ」

頭に軽いチョップが降ってくる。思わず声をあげれば、「もっと女の子らしい声出せよ」と笑っている。

「もっと頼っていいからな」
「はい」

やっぱり先輩は優しい。
ますます気持ちが大きくなるのを実感していた。

「例の3人組には釘を刺しておいたから、当分は大丈夫だと思う」
「えっ、本当ですか、良かった・・・」

じゃあもう、難癖つけられることも上履きに釘入れられることもないんだ。
無意識のうちに抱え込んでいた憂鬱な気分が、さっと晴れていくような気がした。





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