夕暮れの中を二人で歩く。
先輩のジャージを着て、先輩と一緒に歩くのはなんだか不思議な気分だった。

特に会話もない。
ただ、すぐ隣で並んで歩くだけ。
私の小さい歩幅に合わせてくれる先輩の優しさをほのかに感じた。

「心配だから部屋までついていくわ」


家の鍵を開けて、見慣れた玄関に足を踏み入れる。

「じゃあ、今日はしっかり寝ろよ」
「あの、先輩」
「ん?」
「なんでそんなに優しくしてくれるんですか」

驚きの表情が、ゆっくりと微笑みに変わる。

「そりゃ心配だからに決まってるだろ?」
「私がマネージャーだからですか、それとも・・・」

その先は言えなかった。
先輩は私の頭をそっと撫でる。

「さあ、どうだろうな」

先輩の手が離れていく。
「また明日な」と扉が閉まる瞬間まで、先輩と目を合わすことができなかった。



目が覚めたら、夜の9時だった。
空腹にいそいそと布団から出て、食事を済ませる。

最初はやけに突っかかってくる人だと不審に思ってたけど、今ではその絡みが嬉しくて。
一人で考えあぐねた末、メールをひとつ送信した。

『りっちゃん、私黒尾先輩のことが好きなのかも』

返事はすぐに返ってきた。

『やっと気づいたの?私はもっと早く気づいてたよー、だって孤爪くんと話すときの顔と黒尾先輩と話すときの顔が全然違うんだもん。私応援するよ!』

私は一体どんな顔をしてたんだろう・・・。
恥ずかしく思うと同時に、少し吹っ切れたような気がした。





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