あの子に投げた冷たい声と視線。 私に見せてくれる優しい声と表情。 そして自惚れさせるには充分すぎる、あの暖かな抱擁。 部活中だというのに、考えるのはそればかり。 「危ない!」 「奈月さん!」 「奈月!」 声に振り向けば、迫り来るボールがスローモーションで流れてくる。視界の端に先輩が映った気がした。 「あっぶねー!何やってんだリエーフ!」 先輩が間一髪でボールを突き飛ばし、直撃は免れた。 「すいません!奈月さん大丈夫でした?!」 「あ、うん、大丈夫」 「奈月も、ぼーっとしてないで避けろよな」 「うん、ごめんなさい」 「なっちゃんなんか顔赤い」 「えっ、そんなことないよ」 「熱でもあるのか?」 研磨くんの指摘を受け、先輩の大きなてのひらがおでこに触れる。 「んー、確かにあるかもしれん。なんかボーッとしてるし風邪でも引いたか?海、ちょっと保健室行ってくるから後頼むわ」 「行ってらっしゃい」 先輩にまたもや手を引かれ、保健室へと向かう。 扉を開けるも、誰もいない。 先輩が体温計を手渡してくれる。 「ほい」 「ありがとう、ございます」 静まり返った空間。 体温計の音が鳴り響く。取り出してみれば、37.0℃と表示されていた。 先輩にも見せるように手渡す。 「熱あるな」 「微熱ですよこれくらい」 「いや、今日は色々あったし家帰ってゆっくり休め」 「でも・・・」 「お前に今倒れられたら困るからな。鞄取ってきてやるから、少し座っとけ」 「・・・はい」 |