試合後の後片付け。
折り畳んだ椅子を3脚、一度に持ち上げて運ぶ。

「あ、それ運びますよ」

聞きなれない声に振り向けば、長身眼鏡に明るい髪が印象的な、烏野のミドルブロッカーさんだった。

「え、あ、大丈夫ですよこれくらい」
「女の子に力仕事させてたら田中さんに怒られるんで」

そう言ってひょいと持ってた椅子を取り上げられた。

「ありがとうございます」
「あ、それと」
「はい」
「もしかして主将と付き合ってるんですか?」
「えっ」

時が止まる。
完全に硬直した私を怪訝そうに見ている彼。

「くっ、黒尾先輩とはそんなんじゃないですよ!ただの先輩後輩です!」
「そうですか。じゃあ失礼します」

そう言ってさっさと戻ってしまった。
何なの・・・付き合ってるって、そういう意味だよね?

「なっちゃん?」

研磨くんが寄ってきて、何やら心配そうに見ている。

「ねぇ、研磨くん。烏野の背が高くて眼鏡の人ってなんて名前?」
「えっ、確か月島・・・だったかな」
「どうしたお前ら」

一番の当事者の声が聞こえてきて、びくりと体が跳ねる。
試合に勝ってご機嫌の黒尾先輩がそこにいた。

「な、なんでもないです!」

思わずその場から逃げ出していた。

「あ、おい!・・・なんだありゃ。なんかあったのか?」
「なっちゃん、烏野の11番の名前聞いてきた」
「11番ってあの眼鏡くんだろ?なんで」
「さっきなんか話してたみたい」
「・・・へぇ」

急転直下。
黒尾の機嫌が一気に悪くなるのを雰囲気で感じ取った研磨は、あわてて話をそこで打ち切るのだった。


「「ありがとうございました!!」」

遠征の全日程が終了した。
行きと同様、新幹線で帰路につく。
同じように黒尾と研磨に挟まれた奈月は、帰りはゲームをせずにひたすらあくびを噛み締めていた。

「寝てもいいぞ、着く前に起こしてやる」
「ほんとですか?すみません・・・夜久さんちょっと席倒しますね」
「オッケー」
「じゃあ、ちょっとだけ・・・」

目をつぶったら、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。
ジャージを体にかけてやる。頭を撫でてそっと呟いた。

「お疲れさん」



「・・・ん?」

奈月が目を覚ますと、音駒の赤ジャージがかけられていた。
隣の研磨くんは着ている。黒尾先輩は着ていない。
(先輩のジャージなのかな)

「起きたのか」
「先輩、これありがとうございます」
「日も落ちたし寒くなるからそれ着とけ」
「え、でもそしたら先輩が寒くなりますよ」
「俺は平気だから」
「そうですか?ありがとうございます」

袖を通す。ぶかぶかの丈がお尻あたりまですっぽりと覆った。

「さすがにでかいな」
「はい。なんだか先輩に包まれてるみたいです」
「・・・え?」
「な、なんでもないです!」

思わず口走ってしまった言葉を頭の中で反芻し、恥ずかしくなって顔を背ける。
黒尾は黒尾で、顔を片手で隠すように覆っていた。
(なんだよ不意打ちかよ・・・)


先輩の強い勧めで、今日はジャージを借りて帰った。
明日また綺麗にして返さなきゃ。





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