「なに、君ひとりで昼飯食べてんの?寂しくない?」


見ず知らずの人(しかもどうやら先輩らしい)にいきなりこんなことを言われれば、嫌悪感が前面に出てしまうのは仕方のないことだ。
クラスの他の人たちも、何事かとこちらに注目している。おかげで今の私はきっとすごい変な顔をしていると思う。
何も言えずに黙っていると、まさに今開けようとしていたお弁当箱を、その長身の男に取り上げられた。

「あっ」
「こっち来なよ、一緒に食べようぜ。研磨もいいよな?」

そう言われた孤爪くんは、こちらをちらっとだけ見て、ぼそりと言った。

「別に、いいけど」



私は友達が多くはない。
唯一安心して何でも喋れる友達のりっちゃんは、2年に進級してクラスが別になってしまった。おまけに委員会やら部活やらで忙しい子ということもあって、一緒に昼食を取れるのも週に2回程度だ。
りっちゃんが来てくれる日以外は、必然的にひとりでお弁当を食べる。

(別に寂しくはないもん、慣れてるし、楽だし)

そう思いつつ、同じようにいつも一人でいる彼に視線が無意識のうちに向いていたのだった。
特に話したこともないのに名前を知っていたのもそのせいだ。
彼には仲のいい友達がいないのかと思っていたが、そうではないということが今しがた判明した。


「別に、友達がいないわけじゃないです、忙しくて中々一緒にいられないだけですから」

あれだけ注目された上に断るのも、あの背が高くて威圧感のある上に目つきの悪い先輩から無理やりお弁当を取り返すのも憚られ、結局一緒に昼食を取ることになった。
隣の席の椅子を拝借して、孤爪くんの机に置かれたお弁当の包みを開きながらぽつりとこぼす。

「秋原さん、クロの言うことは気にしないでいいよ」
「ひでーな」
「名前、どうして・・・」
「ちょっと似てるって思ったから」

視線をこちらには向けないまま、柔らかいトーンで話す彼。
どうやらお互いに同じようなことを思っていたらしい。
上手な返答に悩みながらお弁当箱の蓋を開けると、

「すげー、うまそー」

クロと呼ばれる先輩が割り込む。
別に何の変哲もないただのシンプルなお弁当なんだけど・・・。


「いたいた、おーい黒尾」

ふいに廊下から声がかかる。
そこにいたのはまたもや3年生。しかし優しそうな雰囲気を持った人だ。

「お、夜久お前も一緒に食うか?」
「黒尾進路希望調査まだ出してなかったろ?先生呼んでる」
「うぇーマジかよ・・・秋原ちゃん?」
「えっ、はい」

急に呼ばれて思わず声の方を見れば、目がしっかりと合ってしまった。

「下の名前は?」
「奈月・・・ですけど」
「オーケー秋原奈月ちゃんな、覚えた。悪いな研磨」
「別に」

そう言って黒髪長身の先輩は、教室を後にする。
去り際に、「じゃーね奈月ちゃん、また明日」と言って手を振ることも忘れずに。

「えぇ、明日も来るの・・・」
「・・・みたいだね」

妙に注目されてしまっていることに気付いて、慌てて手元の弁当に目を落とす。

「孤爪くんは、さっきの人と友達なの?」
「友達というか、幼馴染」
「そうなんだ」

会話が続かないが、話を膨らませるのも得意ではないのでそのままお弁当を食べる。
普段なら無言に居た堪れない気分になるが、なぜか今日は気にならなかった。

そのままゆっくりと食べ終わり、休憩時間の終わりも近かったので自席に戻ることにする。

「それじゃあ、戻るね」
「うん、ありがと」

ありがとう?
疑問に思いながら、既にキャパオーバーの私は深く考えないことにした。






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