放課後。 部活の子たちはさっさと出払い、ふたりさんにんしかいなかった教室に、他のクラスの女子集団がやってきた。ちらりと見れば、彼女たちもこちらを見ている。 あ、やばい。 集団と言ってもたかだか3人だが、それでもぼっちの自分には怖いものがあるのだ。他のクラスメイトが危険を察知してさっさと教室を出て行ったのが見えた。 「あんたが秋原奈月?今日あんた黒尾先輩と仲良く喋ってたって聞いたんだけど」 黒尾先輩って誰だっけ。 ・・・あぁ、そういえばあの時呼びに来た先輩があの人をそう呼んでいたっけ。 しかしあれは仲良く喋ってたとは到底言えないだろう・・・と思いつつ。きっと彼女たちにとっては仲良くかどうかはどうだっていいのだ。 黒尾先輩と、会話をしていたということ自体が問題なのだ。 「何か言いなさいよ」 「・・・」 お供の子が急かしてくる。さて、どうしよう。 迷った末にゆっくりと口を開いた。 「・・・話し掛けられたから返事しただけです」 そう返すも、その後の反応でこれは間違ったと悟る。 失敗した。完全に読み間違えた。 先輩に話し掛けられたということがまず彼女たちの機嫌を損ねているのだ。話の内容とかいう問題じゃなかった。 「あんたねぇ!」 何やらたくさん怒鳴られるも、だんだんとその声は耳へ届かなくなる。ボリュームを下げるように、そのうるさい声が弱まっていく。 あとは縮こまって耐えるだけ・・・ 「なにしてるの」 そこへはっきりと聞こえた別の声。 「孤爪くん・・・」 「あんたは、」 黒尾先輩のファンなら、きっと幼馴染である彼のことも知っているだろう。その彼にこの現場を見られたというのは、これが黒尾先輩本人に届く可能性もある。 それを一瞬のうちに考えたのかはわからないが、 「行くわよ」 そう言って彼女たちは去っていった。 「ありがとう」 「忘れ物取りに来ただけだから」 「・・・あの、孤爪くん」 机をごそごそと漁る手が止まり、こちらを振り向く。 「さっきのこと、先輩には言わないでくれる?」 「いいけど・・・」 「本当にありがとう、それじゃ」 それだけ言って逃げるように教室を飛び出した。 失敗したことに気づいたのは、家に帰ってからだった。 先輩には言わないで それは、あの件が先輩に絡んでいると伝えたも同然だ。 そのまま逃げるように帰ってきたのも、せっかく助けてくれた孤爪くんに失礼だったかもしれない。明日、お礼に何か買って行こう。そう決めた。 |