「あの、すみません、少しお伺いしたいことがあるのですが」


ランジエはいつになく焦っていた。

噂によると、ここカンタパルスで最近旧アノマラド王家が滅びたときの新たな記録が見つかったとか。


「あぁ、それなら時の寺院だな。町を出て北東にずっといけばある」

「ありがとうございます」


一礼し、早速町の外へと向かった。



「いらっしゃい」

「こんにちは。ここで何やら不思議な現象がおきていると聞いたのですが」

「はい、ここのポータルから二つの時間にワープすることが出来ます。
ひとつはドラケンズ戦争終戦直前のオルリー。
もうひとつは戦争終了後のケルティカです」

「もう少し詳しく教えて頂けますか?」


彼の真剣な眼差しがアンタキアを捕らえた。


「オルリーでは、オルランヌ軍とアノマラド軍の戦争が繰り広げられています。
オルランヌ軍側に加勢して、アノマラド軍の攻撃を凌がなければなりません。
ケルティカでは、アノマラド王政を転覆させる為に動いている革命軍に加勢します。
私たちはこの時空の歪みがサンスル神の信託であるとし、神意を伺うために神官たちや冒険者のかたがたに協力をお願いしているのです」


革命軍・・・間違いなく民衆の友のことだ。

その時は革命軍は勝利し、共和国にすることができたはずだ。

そこに参戦することになるとは・・・どういうことだろう。

歴史を変える必要があるのか?


「私が今、それを体験することはできますか?」

「申し訳ありませんが、トデック様からの紹介された方のみとなっております」

「そうですか・・・」

「はい、今現在も一人の冒険者様が中に入っておられます。神妙な顔をしてらっしゃったのが少し不安なのですが・・・」

「大丈夫ですよ!」


声をかけたのは金髪をひとまとめにした女性だった。


「彼、南アノマラドのアクシピター所属の剣士なんですって。他の人から聞いたのだけど、実力もあるそうよ」

「アクシピター・・・もしかして、髪の長い、大きな剣を背負った男ですか?」

「あら、知り合いなんですか?そうそう、紺色の長い髪が素敵な方だったわ」


ランジエの赤い瞳にさっと動揺が走った。


「彼は今、この中に?」

「えぇ、トデック様からの依頼で革命のほうへ」


ボリス・・・

真面目な彼のことだ、きっと依頼だからと自分の感情を抑え遂行したのだろう。

彼の心境を、ランジエは容易に想像することができた。


「ありがとうございました。失礼します」


そう言って時の寺院を後にする。

心配で堪らないのだが、自分に出来ることは何ひとつない。


「ボリス・・・」


気がつくとカンタパルスまで戻ってきていた。

そして、本来の目的である革命軍の詳しい内容を聞き損ねたことに気がついた。

自分が役割を忘れてまで固執するなんて。

あの時、確かに二人は違う道を選んだ。

気にする必要はない、本来ならば敵なのだ。

それでも、気にせずにはいられなかった。


こんな気持ちは初めてだ。





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