自分から望んだ孤独のはずだった。 もう慣れたとも思っていた。 無駄な感情なんて捨てたつもりだった。 なのに、なぜ こうも心が晴れないのだろうか。 ランプの灯を消し、真っ暗にする。 手探りで窓を開けた。 涼しい夜風が入り込んでくる。 綺麗な丸い月が見えていた。 窓枠からひょいと屋根に上がる。 屋根に座り、少し近くなった月を見上げる。 夜風に長い髪が靡く。 空はこんなにも晴れているのに。 雲ひとつない空には満月にも負けじと那由多の星が輝いている。 「何をしてるんだ」 不意に下から声がした。 「マキシミンか」 「ずいぶん暗いな」 それだけ言うと屋根にのぼってくる。 その言葉が指すのは、夜か、俺か。 若干の距離をおき、隣に座った。 「月が綺麗だな」 「・・・あぁ」 「どうしたんだ、全く」 「マキシミンも綺麗なんて言うんだな」 「どういう意味だ」 「いや、深い意味はないさ」 前を向いたままのその表情は、薄暗く読み取れない。 「・・・あいつが」 「ん?」 「あの坊っちゃんがかなり心配してたぜ。いつものお前らしくないって」 「そうかな」 「そうさ。俺でもわかる」 「・・・」 星空を見上げ、黙りこむ瞳には不安が映っていた。 「俺はお前が何に悩んでるのか知らねぇけど」 「・・・うん」 「話を聞くくらいならいくらでもできるんだ」 「あぁ」 「いいか、悩みなんてものはな、ちょっとしたことですぐ解決するもんなんだ」 「・・・」 「いつも冷静で、的確な指示の出せるお前が上の空じゃ皆だって戸惑うんだ」 「マキシミン・・・」 「誰かに相談するか、気にしないことにするかしてさっさと忘れちまえ。 ・・・お前は皆に必要とされてるんだ」 最後の一言に反応したのか、マキシミンのほうを向く。 目と目が合った。 「俺が、必要・・・?」 「お前な、お前がいない時のあの坊っちゃんの様子知ってるか? 『ボリスはどこ?なんでいないの?悩みなら僕に相談してくれればいいのに・・・』」 ルシアンの声を真似てみせる。 ボリスがふっと笑った。 「やっと笑ったか」 「え、」 「沈んだ空気は周りにも影響が出るもんだ」 「・・・すまない」 「明日は皆でライディアまで行く。遅れるなよ」 「あぁ」 屋根を降りようとする姿に向かって呟いた。 「ありがとう」 「ふん、お礼言われるようなことはしてねぇよ」 相変わらずのその台詞に微笑んで、ボリスも部屋に戻った。 窓をきちんと閉める。 これでぐっすり眠れるだろう。 「明日、ルシアン・・・いや、みんなに会ったら謝らないとな」 そう呟くと、青年は夢の中へ落ちていった。 |