数羽の白い鳥が飛んでいた。

柄にもなく、ボリスは羨ましいと思っていた。


「行きたい所にまっすぐに向かえて、それを阻む者もいない」


山や海などといった壁が影響しない、空。

鳥になりたい、とすら一瞬考えた。

すぐに自分の突飛過ぎる考えに笑う。

剣を握れないのは困る。

そして困る理由の一番に剣を挙げた自分に困惑し、呆れた。


「もっと大切な事があるだろうに」


脳裏を過るのは、一房だけ白の短い髪。


「イソレット…」


無意識に呟く自分にはっとして辺りを見回す。

誰もいなかった。

何故か恥ずかしく思い、鳥を視界から外した。


彼女は元気でいるだろうか。

あの島で、今も生活しているのだろうか。

どちらにしろ、それを知る術は今のボリスにはない。

追放、いや、自分から抜け出してきた手前、戻ることは出来ない。

それに今、戻る訳にはいかない。

自分にも彼女にも、やるべきことがたくさんあるから。


それでも、そうだとしても、彼女の無事を憂い願うくらいはいかに月の女王といえ、きっと許してくれるだろう。

もう一度空を見上げてみた。

宙に舞う白い羽を残し、自由な鳥はもう見えなかった。

ひらひらと降りてくる羽を掴む。


「ヨズレル、彼女は今も元気だろうか」


鳥の女王の声が、心の中に響いてきた気がした。


歌うことが許されないとしても心は自由だ、誰にも縛られはしない。


今ならきっと素敵な歌が歌えるだろう。

決して声には出さないまま、目を瞑り、歌を紡ぐ。

鳥が去っていったであろう空を見上げ、目を開ける。


この声よ、海を遥か超えて彼女の空まで届け。






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