彼やジェイドが軍の幹部であり、国王があのピオニー陛下。この国はきっと素敵な国なのだろう。あまり思いを馳せては別れが辛くなると分かってはいても、そう思ってしまっていた。 優しい微笑みを向けてくれるアスランに、そっと微笑み返す。 何となくジェイドの視線が痛いのは気のせいか。 「メリーはカーティス大佐と仲がよろしいのですね」 「えっ、まぁ、あちらでは長く一緒だったから・・・」 「ふふ、お似合いだと思いますよ」 「あ、えっと」 「メリー、素直に喜んでいいのですよ」 「そ、そう?ありがとう」 「こんな素敵な女性が奥様になるとは羨ましいですよ大佐」 ・・・え? 「おや、渡しませんよ」 「ふふ、私には心に決めた人がいますので」 「そうでしたね」 何だろう・・・この国の人たちはみんなこうなのかしら・・・ 宴も終わり、ジェイドの執務室に戻ってきていた。食後のコーヒーを頂く。 エミリアは何やらぼーっとしている。ジェイドはどうやら書類を片付けているようだ。 さすがに疲れたのかエミリアがうつらうつらとしてきた。 「そろそろ帰るわ、エミリアもこんなだし」 「はいぃ〜」 「あと少しだけ待っていただけますか、そうしたら送ります」 「まぁ、私たちだけでは帰れないから貴方に任せるけど」 「もう少ししたら陛下もこちらに来られるかと」 「そう、最後に挨拶しておかないとね」 規則的に走るペンの動きを眺めながら、彼の普段の生活を想像する。彼ほど上の立場になると、直接動くよりこんな事務仕事が多くなるのだろうか。 ここで書き物をして、コーヒーを飲んで、たまにはそっちのソファに寝転んで。 さすがにここで生活の全てが終わるわけではないだろうから帰る家がきっとあるのだろう。休みの日は何をして過ごしているのだろうか。 「家は別にありますが、最近はほぼ帰っていませんね」 「・・・私何も言ってないわよね?」 「ソファを見ながらそんなに考え事してれば思い当たるのはそれくらいでしょう」 「なんというか、さすがね」 「貴女を今夜家に招くのも吝かではないのですが」 「ジェイド!」 ちらとエミリアを見ると、両腕を枕に机に向かって寝息を立てていた。 「ですが、どうせなら貴女の世界のほうがたくさんの時間を過ごせますからね」 「おいジェイドー」 上げようと思った声は、外からの声にかき消された。 ノックもせず入ってくるピオニー陛下と後ろからアスラン。 「ノックくらいなさってください」 「すまんすまん、急がないと帰っちまうと思ってな」 たくさんのお菓子がつまった籠を渡される。 「土産だ。これくらいしかできないが」 「ありがとうございます、陛下」 最大限配慮してくれたのが分かるお土産。ありがたく受け取る。 ジェイドがペンを置く音がした。 「直近の急ぎのものはこれで仕上げましたので、フリングス将軍、すみませんがこれをあとで確認して頂きたい」 「了解しました」 「エミリア、帰るわよ」 「うぅ〜ん」 ゆっくりと目を開け、皆が見ていることに気づくとパッと飛び起きた。 「うわっ、すみません!」 「構わん、あれだけ動けば疲れもするだろうさ。こっちで休んでも構わないんだが、先に帰ったほうがいいんだろう?」 「こっちで一晩過ごせば向こうで10日ほど経っているでしょうか」 「そんなにですか・・・」 「ジェイド。確認だが、あっちでの技術を転用の話はナシだ」 「承知していますよ」 「だが、お前の休暇はあと1日ある」 「おや、陛下にしては気が利きますね」 言外を理解したジェイドに満足な顔を向けたあと、二人を順番に見る。 「メリー、エミリア。先はあんな話になったが、またこっちに来てもいいんだからな」 「陛下・・・?」 「もちろんお前たちの力を借りることは二度とない。これは約束する。だが、お前たちは国の恩人、すなわち俺の友人だ。友人としていつでも遊びに来い」 優しい微笑み。彼の声が心に響く。私を友と呼ぶのは彼で何人目だろう。 正しく自分を理解してもらえたという確信が、よりこの地への愛着を深めた。 「はい、ありがとうございます」 「また美味しいご飯が食べたいです、陛下っ」 「おう、いくらでも用意してやる」 「ではそろそろ」 「あぁ、じゃあまたな」 「お二人ともお元気で」 「アスランもね、陛下のお心配りに感謝します」 「ありがとうございました!」 無数の光の粒が弾けると、3人の姿はそこにはなかった。それを見つめる王は、ぽつりとこぼす。 「礼を言うのはこっちなんだがなぁ」 「不思議な人たちでしたね・・・しかし、良かったのですか?カーティス大佐に休暇を」 「あんな幸せな顔を見たら、すぐ離れて働けとは言えないだろう」 「そうですよね、良かったです陛下が働く気になってくださったようで」 「そうは言ってないぞ!あ、俺新しいブウサギを迎える準備が忙しいからー」 「陛下!逃がしませんからね!」 「いやだ!ブウサギにメリーとエミリアと名付けるんだー!」 「まだ増やす気ですか、大臣に叱られますよ」 「メリー!エミリアーー!」 back * top |