なんの変哲もないただの小さな部屋、なのだが。
帝国の装置のようなわけのわからない物がある訳ではない。書類の積まれた文机に椅子、ソファーにぎつしり詰まった本棚、それ自体はよく見るものだ。
しかしどことなくその雰囲気に、見慣れなさを感じる。
これが異世界ということなのだろう。
隣のエミリアも部屋を見回している。

「こちらです」

一つしかないドアを開けて、彼は短く言った。


長い廊下だ。
同じようなドアがたくさんある。きっと中は先ほどと似たような部屋になっているのだろう。
気がついたのは、華美な装飾が一切ないということ。しかしそれでいて質素過ぎもせず、古いがきちんとしたつくりで出来ていることに感心していた。

通路の奥から人の気配。
壁伝いに曲がってきたその人は、壁にもたれたまま崩れ落ちた。
ジェイドが走り出す。それを追いかければ、ジェイドと同じような軍服の青年。

「フリングス将軍!」
「触れてはいけません!・・・くっ」

ジェイドが目の前に屈み込み、様子を見る。
その蹲る銀髪の青年は将軍らしい。というとジェイドより上官になるのか。

「将軍、あなたまで」
「どうやらそのようです・・・。カーティス大佐、すみませんが・・・」

それもそうだろう、彼の残り体力はわずかだ。どうやら毒に侵されている。
これが見えるのも超える力の特権なのだろうか。

「メリー」
「えぇ」

ジェイドの声に応えると、フリングス将軍の目がこちらを向く。
天球儀を掲げ、まずは小手調べにベネフィクを詠唱した。
やわらかい光が彼をつつむ。手応えはエオルゼアにいるときと変わらないが、彼の体力はわずかしか増えない。
ならば・・・ディグニティ。HPが少なければ少ないほど回復するスキルだ。おかげで大きく回復するが、それでも彼の体力は半分にも届かない。

「こ、これは・・・」
「私の知人のヒーラーに来ていただきました。どうですか?」
「すごく楽になりました、ありがとうございます!これなら動けます」
「いえ、まだ毒が残っているわ」
「毒?」

首を傾げる将軍に説明する。彼らにかかっている毒。それが消えないとまた体力は減っていく。
エスナは効かない。となると全快か・・・。

「エミリア、ベネを」
「はい!ベネディクション!」

くるりと回って杖を掲げるエミリアの光が降ると、彼は全快する。毒も消えた。やはり全快が条件か。
彼はきっと私やエミリアのように残り体力が割合で見えているわけではないだろう。それでも、体感できるほどに大きな変化だったはずだ。
驚きの表情とともに立ち上がり、己の体を眺めている。

「まさかこんな・・・」
「これで毒も消えましたよ!バッチリです!」
「本当に・・・本当にありがとうございます、お二方。なんとお礼を言えばいいのか・・・」
「ちゃんと効いて良かったです」

ジェイドの方を向くと、彼はひとつ頷いた。

「では皆の所へ行きましょう。フリングス将軍、案内して頂けますか?」
「はい、こちらです!」



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