二人で囲む夕食。肉や野菜の入った美味しそうなスープだ。

「これはゼラスープと言うの。ゼラっていうのは、アウラの部族の名前。私もゼラなのよ」
「ほう、つまり貴女の郷土料理というわけですね」
「それがね・・・実は知ったのがつい最近なの」
「・・・というと?」
「私故郷の記憶がなくて・・・私の一番古い記憶は、ウルダハの街へと向かうチョコボキャリッジに揺られているところなの。せいぜい5年前。どうしてそこにいるのか、どこに向かってるのかも全く分からなくて」

ゆっくりと語るその瞳には、やや哀しみが見え隠れしている。昔の記憶がない。思ってもみなかった彼女の過去。
そういえば彼女はなかなか自分のことを語ろうとしなかった。記憶がないゆえに、語れなかったのかもしれない。

「貴方がいない間に新しい土地に行く機会があったの。そこには私と同じ色の角に鱗を持ったアウラ族がたくさんいたわ。そこで話を聞いていて、教えてもらったレシピなのよ」
「そうだったのですね」
「もしかしたら、小さい頃食べていたのかも・・・と思ったけれど、やっぱり何も思い出せなかったわ」

ふふ、と微笑んでみせる彼女が、急にとてもか弱く見えた。彼女はどれだけのものを一人で抱え込んでいるのか。

「とても美味しいです」
「そう?それは良かったわ」
「・・・過去が、気になりますか?」
「全く気にならないといえば嘘になるけれど。でもあまりもう気にならなくなったわ。覚えるべきことがたくさんで、どちらにせよもう昔のことを思い出して覚えておけるほどの記憶の余裕がなさそうなの」
「これからのことも、しっかり覚えておいてもらわなければいけませんしね」
「ふふ、そうね」


食後のティータイム。ゆったりとした時間が過ぎていく。
にも関わらず、何故か不安が心にちらつく。
虫の知らせとも言うべき胸騒ぎがしていた。

「メリー、私は一度帰ろうと思います」
「え、今日来たのでしょう?」
「はい。すみませんが少し確認したいことができました」
「そう・・・分かったわ」
「大丈夫です、また戻って来ますよ」

そんな保証はどこにもなかった。原理が判明しない以上、何が理由で時空越えが出来なくなるかも分からない。
彼女の無限の鞄を思い出した。当たり前のように使っているが、使えなくなったときどうするかとまではきっと考えていないだろう。

「待ってるわ」
「ええ」

頬に軽くキスを落とす。鱗が冷たい。
彼女の肌は反比例して赤く染まった。



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