あれから、数ヶ月が経とうとしていた。 あの時の出来事を忘れた訳ではないが、あれからまた、忙しい日々を過ごしていた。 アルフィノに手を貸したり、蛮神を倒したり、色々だ。 今日は今日とて、新しく見つかったダンジョンの調査に乗り出し、踏破して戻って来たところだ。 今晩は何を食べようかなぁ、そんなことを考えながら自宅の扉を開けた。 リビングの机と椅子を悠々と使い、なにやら熱心に書き物をしている、亜麻色の長い髪の男がいた。 その男は玄関が開いた音に気付き、こちらを振り返る。 「おやメリー、おかえりなさい」 眼鏡をくいと押し上げて、やや胡散臭い笑顔で、久しぶりに聞く声を響かせた。 あっけに取られ、しばらく固まったあと、ようやく出てきた声はなんとも間抜けな音だった。 「な、んで」 「貴女が私をハウスメイトに登録したのですよ?忘れてしまいましたか」 「そうじゃなくて」 「あぁ、あの時のハイデリンの言葉を覚えていますか」 「・・・あなたの、思うままに」 「そうです。行きも帰りも自由ということのようですよ」 あっけらかんと言い放つ目の前の人物に、軽く眩暈を覚えた。 あのとき今生の別れみたいなさよならをしておいて、半年も経たずにこれか・・・ しかしなぜか、どこか心の中でその可能性について最初から気がついていたような気もする。 彼がそこにいることに対する、否定的な感情は一切なかった。 ようやく事態を飲み込めてきて、取り敢えず扉を閉め、向かいの椅子に座った。 「ところでメリー、あの時計は正確ですか?」 ジェイドが指差した先の壁には、時計が掛けてあった。 今も変わらず、正確に時を刻んでいる。 「もちろんよ。どうして?」 「どうやら、私の世界と時間の進み方が違うようなのですよね」 何と返答していいかわからなくて黙ったままだが、彼は気にせず喋りかける。 「前回、私が帰ったとき、あちらではわずか半日ほどしか経っていなかったのですよ。メリー、私と会うのはどれくらいぶりですか?」 「・・・半年だけど」 「ああやはりそうですね」 何やら熱心にひたすらペンを走らせている。 「時計の表示も針の速度も、こちらと変わりはありませんが・・・1日は24時間ですか?」 「えぇ」 「ひと月は何日です?」 「32日だけど・・・」 「ほう・・・1年は何ヶ月です?」 「12ヶ月・・・」 「ふむふむ、1年が384日ということですか」 「そっちはどうなの?」 「私の世界の1年は13ヶ月あります。最後の月だけ60日、他は58日なので1年が756日あります」 「な、ななひゃくごじゅうろく・・・」 「しかし単純にその差だけではないようです。原因は分かりませんが、ともかく私はこちらの世界に来れば時間を更に有効に使えるようですね」 「なんというか・・・羨ましいことね」 二人で夕食を取り、今後の方針について話し合う。 彼の目的は技術と知識の取得だ。その点においてはメリーが手伝えることは少ない。 やはり他者の手を借りるか、あの魔物にまみれた図書館に攻め入るしかないだろう。 「そうですか、それでは仕方ありませんね」 「大丈夫、私もあれから強くなったから。貴方の力を借りずとも、守ってみせるわ」 「それは心強い」 back * top |