「さあ、ボスのお出ましね」

円形の部屋に待ち受けていたのは、たくさんの球体関節人形の女の子だった。
ピクリとも動かない。まるで誰かを待っているかのように。


「これが、ボスですか?」
「甘く見ていると痛い目に合いますよ!」
「ボスだからと言って特に作戦が変わる訳ではないわ。しっかり避けるときは避けて攻撃を入れるだけよ。ジェイド、容赦なく魔法を撃ち込んであげて」
「えぇ、わかりました」
「ビル」
「おう、いくぞ!」


リーダーが斧で一体に切り掛かると、途端に全ての人形が動きだした。
くるりくるりと素早く動き、ターゲットを絞りきれない。

「ジェイド!ここへ!」

彼女の目の前まで走り寄る。
人形が目からビームを出して、付近をぐるりと焼き尽くす。危うく被弾するところだった。

「炸裂する力よ、エナジーブラスト!」

威力より速度を優先したその譜術が弾け、人形の一体が倒れる。一体一体はそこまで強くないようだ。
見れば他のみんなも各個撃破で数を減らしていた。
何かくるのかと身構えるも、そのまま最後の一体も譜術によってあっけなく地面に倒れる。

「ここからよ」

彼女の言葉が耳へと届く。
全ての人形が起き上がり、集まり、合わさり・・・
己の身の丈の倍どころではない大きさの、巨大な一体の人形へと合体したのだ。
すかさず攻撃を開始する。

「サンダーブレード!」

人形の不気味な表情が妖しく光る。
メリーがふと敵に背を向けた。何を、と言いかけた途端に人形の目が光り、彼女に向かってビームを出す。
光を背中でやり過ごしたらしい彼女は、また前を向いて攻撃を再開した。

「炎帝の怒りを受けよ、吹き飛べ業火、フレアトーネード!」

熱風が確実に敵の体力を奪う。
よろけた人形が頭を抱え、防御体勢を取った。

「ジェイド、ここ!」

リーダーの真後ろにメリーもエミリアも固まっている。
石の塊をぶつけるエミリアの後ろから、自分も魔法を撃ち込む。

「聖なる意思よ、我に仇なす敵を討て!ディバインセイバー!」

防御を解いた人形は、何やら魔法を詠唱する。
嫌な予感がする。しかし詠唱を止める事はできない。
メリーが治癒術を詠唱完了した、その時。

『人形になーれ』

声なき声が脳裏に過る。
途端、メリーとエミリアが捕らえられ、不気味な人形の姿に変身してしまった。

「メリー!」

人形の姿のままくるくると動き回り、攻撃を仕掛けてくる。
彼女の攻撃を食らう。しかしその傷は徐々に癒えていく。
直前に使った彼女の治癒術の効果が発揮されているのだ。

「ジェイド、メリーとエミリアは攻撃して壊せば元に戻る!」
「・・・わかりました。さあいきますよ」

限界を超えた力が漲る。
周囲のエーテル、いや音素の流れを感じ取ったのか、リーダーがはっと息を飲む音が聞こえた。

「旋律の戒めよ!死霊使いの名の下に具現せよ!ミスティック・ケージ!! 」

時が止まったかのような一瞬。
刹那、その譜力の巨大な檻が爆発する。
強大な一撃をまともに食らった人形は、倒れ、動きを止めた。
メリーとエミリアの人形の魔法が解け、二人が戻って来たのだった。

「お疲れ様」
「何ともありませんか?」
「えぇ、大丈夫よ」
「前回もこうでしたからねー」
「・・・そうでしたか」
「俺とジェイドが選ばれるかと思ったから、そこは予想外だったけどな」
「だけど最後の一発、凄かったわね」
「ほんとに!もうちょっと恐ろしくて震えちゃいましたよ!」
「そうですか?まぁ、まずまずでしたね」
「うわぁ・・・」
「ふふ、さて、用事を済ませましょう」






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