「少しお聞きしたいのですが」

隣のヤ・シュトラに小さく声をかける。

「何かしら」
「貴女のその目、見えていないのではありませんか?」
「・・・そうだとしたら?」
「貴女が何故普通に歩き回れるのかが知りたいのです。エーテルを視ることができるとメリーが言っていましたが、そういう関係でしょうか?」
「答えなくても解ってるじゃない。あの子たちには言わないでくれるかしら」
「それは構いませんが」
「余計な心配を掛けたくないのよ」

返事をしようとしたところで、2人が振り向き、こちらへ向かってきたので話は打ち切られた。

「リーダーがすぐ来てくれるそうですよ!」
「入れ違わないように、一度イディルシャイアの出入り口まで戻りましょう」


道がふたつに分かれる手前の地点に到着した。
助っ人はまだ来ていないようだ。

「その、リーダーというのは?」
「私たちのパーティのリーダーさんなんですー、なかなか強い戦士さんです!」
「戦士っていうのはここでは斧を使うジョブのことよ」
「斧といえば、メリーも一番最初に見たときは使っていましたね」
「そう、それと同じ。ただ熟練度は雲泥の差だけれどね」
「あ、来ましたよ!」

やって来たのは、割と平凡な青年だった。
中肉中背、耳も普通、尻尾もない。エミリアと同じタイプだろうか。
そして彼の顔を見た瞬間、またも別の情景が浮かぶ。
石造りの街角で、彼が頭を直角に下げている。
頭を下げるその相手は、メリーだった。
彼女は腕を組み、悩ましげな表情をしている。
一瞬しか見えなくても、強烈に印象に残る画だった。

「面白いことやってるんだって?」
「えぇ、まぁ。呼び出しておいて何だけど、この話を受けるなら、知りえた話は一切他言無用よ」
「わかってるさ。そちらが依頼人さん?」
「はい、ジェイドといいます」
「よろしく」

差し出された手を握り返す。
それを見たメリーが呟いた。

「彼、強いから。タゲ飛ばしたら許さないわよ」
「え、まじか、そんな感じならちょっと料理取ってくる、すぐ戻る」

そう言って小走りに帰って行った。

「メリー、また情景が見えたのですが」
「彼の過去視?」
「えぇ。しかし貴女は彼と一体どういう関係なのですか?」
「・・・何を見たのよ」
「場所は恐らくイシュガルドで、彼が貴女に頭を下げている場面でした」
「あぁ・・・」
「えっ、メリーさんリーダーと何かあったんですか?」
「それは恐らく、彼が私をパーティに勧誘した時だわ。大抵大規模な戦闘をするときは、8人でひとつのパーティを組むのだけど、もともとメンバーだった学者さんが抜けたそうね?」
「そうなんです、ナイトくんと一緒に抜けちゃいました。それでリーダーがメリーさんにお願いに行ったんですね!」
「えぇ、一旦は断ったのだけど、熱心に言われて私のほうが先に折れたという訳よ」
「元々彼と知り合いだったのです?」
「そうよ。あ、戻ってきたわね」
「すまない、待たせたね。何の話をしてたんだ?」
「貴方の話よ」
「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったか。ウィリアム・ティンバーレイク・ヴァン・グレイステルダンって言うんだが、まぁ長いからビルとかリーダーとかって呼ばれてる。彼女たちと同じパーティのまとめ役だ、よろしく」
「おや、貴族のお生まれでしたか」
「まぁ、な。でもこうやって冒険者やってるってことで察してくれ」
「なるほど」
「それじゃ、行くわよ」

5人で低地ドラヴァニアを進む。
洞窟の奥の壁にメリーが手をかざすと、岩が動いて扉が開いた。
その中に入ってゆく。

「今度はなんだい、また隠居の邪魔をしにきたのかい」

老婦人の声がする。中は比較的広い部屋になっていて、声の主がこちらをじっと見ていた。

「またかい、シュトラ」
「私はそうだけど、彼女たちは別件よ」
「こんにちは、マトーヤ様」
「今日はまた逆さの塔に用事があって来たの。行ってもいいかしら?」
「言ったろう、管理なんかしちゃいないって。用事があるなら勝手におし」
「ありがとう。何も聞かないでくれるのね」
「私が関わる話じゃないと判断しただけさね。面倒に巻き込まれるのも御免だよ」
「助かるわ、それじゃあ行きましょう」



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