ふたたび低地ドラヴァニアに戻ってきていた。
さらに人気のない場所に降りる。少し離れた位置には強そうな魔物がウロウロしているが、あまり気にしてはいないようだ。

「ここならいいわね。さあ、その術というのを使ってみて」
「わかりました」

目に付いた虫の魔物に狙いを定め、詠唱を始める。
足元に出現する魔法陣。息を飲む音が聞こえる。

「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け、サンダーブレード!」

雷の刃が命中したその魔物は、そのまま地面に落ち、消えていった。

「すごい火力・・・」
「本当ね」
「これは・・・」
「どう?ヤ・シュトラ」
「・・・見えたまま説明するなら、彼が詠唱を始めると、周囲のエーテルが体内に集まったわ。だけど体の中に入るところで、エーテルが違う何かに変化するのが見えた。彼の体内に元々あるのと同じものだと思うわ。そしてそれを消費して魔法を発動させた」
「なるほど、私の体内で勝手にエーテルが音素に変換されているということですね、それはありがたい」
「フォニム?」
「私の世界において、全ての物質を構成する元素のようなものです。エーテルに比較的近いものだと思われます」
「ということはつまり、その魔法を撃つことによって体内の音素が消費されて瀕死に、なんてことにはならないのね、良かったわ」
「これでなんの気兼ねなく譜術が撃てます」
「ここにいる人以外の前では駄目よ?」
「心得てますよ」

じっとこちらを見て考えていたらしいヤ・シュトラが、尋ねてきた。

「あなた、よその世界からきた割に言葉は通じるのね」
「そういえばそうですよねー」
「えぇ、幸いにも話す言葉には全く問題ありませんでした。文字は違うようなのでメリーに教えて頂きましたが」
「文字が違うのに言葉が同じ?」

ヤ・シュトラは更に怪訝そうな顔をする。

「えぇ、確かに不思議ではありますがね」
「・・・こちらへ来る前は何をしていたの?」
「私は軍人ですので、任務に出たり書類仕事をしたりですね。来る直前という意味でしたら、軍部の自分の執務室で作業をしていました。徹夜で作業を終えたあと、ソファで仮眠を取っていました。そして起きたらこちらにいた、というわけです」
「寝て起きたらここにいた、というのね・・・」
「まさか夢だったりしてー?」
「エミリア、貴女今夢の中なの?」
「言ってみただけですよぅ」
「さすがにここは現実ですよ。ですがそう言えば、目が覚める前に夢を見ていた気もします」
「どんな夢?」
「あまり覚えてはいませんが・・・ふわふわとした感じに、何か声が聞こえたような・・・」

メリーとエミリアははっとして二人で顔を見合わせる。
メリーの呟きが聞こえてきた。記憶が呼び起こされる。

「・・・聞いて、感じて、考えて・・・」
「・・・メリーさん」

脳裏に過ぎる青い空間。不思議な声。

「えぇ、確かにそんな感じだったように思います」
「ヤ・シュトラ、彼はまさか・・・」
「えぇ、そのようね」

目を合わせて二人が頷く。
同時にこちらに視線が向いて、ゆっくりと口を開いた。

「貴方は超える力を持っているんだわ、きっと」



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