「ほら、遠くに見えてきたわ。あの崖の上にある集落がイディルシャイアよ」
「本当にあんな場所に?」
「えぇ。大丈夫、崩れたりしないわよ」

目を疑うとはまさにこのこと。
円錐形に先が細っていく岩の上に、また逆円錐のような形で広い大地が乗っかっている。
今にもあの細い部分が折れてしまうのではないかという、ただでさえ不安定に見える足場。
それが本当は大きな集落であり、たくさんの人があの上にいるとは誰が想像出来ただろうか。

近づくにつれ、その小さく見えた足場が本当に大きかったということが見えてきた。
ついに麓に辿り着く。階段が眼下に見えるが、構わずチョコボで飛んで街を目指す。
たくさんの人がいるのが見えた頃、出入り口付近に見知った顔がいるのが見えた。
チョコボを降りたところに彼女が駆け寄る。

「エミリア、お出迎えありがとう」
「ご苦労様です!さっきアーキテクトンのあたりでfateしてたら赤いチョコボが飛んでるのが見えたんですよー。顔までは見えなかったけど、きっとメリーさんだと思って待ち伏せてみました」
「大当たりね」

にっこりと微笑んだあと、こちらですと誘導をしてくれる。
門の裏側、人気のない場所に立つ女性がひとり。

「ヤ・シュトラ、ちょっといいかしら」

猫のような耳と尻尾をもつ女性が、名前を呼ばれて振り返る。
白く濁った瞳。それが何を意味するのか、一瞬で理解した。
途端、脳裏によぎる情景。
遺跡の中のような場所で、彼女とその前に男性がいる。
両手を広げ、詠唱をする彼女を護るように立ち塞がる男性、その向こうに対立する兵士のような人の波。
写真のような、一枚の情景が鮮明に映し出された。
しかしそれは彼女の声によってかき消されていった。

「あら、メリーにエミリア。久しぶりね。そちらの方は・・・」

現実に引き戻された自分が見たのは、私をはっきりと見据える、白い瞳。

「・・・あなた、何者?」
「彼はジェイド。彼のことについて貴女に聞きたくて、私がここまで連れてきたの。内密にお願いしたいのだけど、どうやら彼は異世界から来たらしいのよ」
「えっ!」

思わず声をあげてしまったエミリアが、はっとして自分の口を両手で覆った。
ヤ・シュトラは更に警戒を強めたようだ。

「初めまして、ジェイド・カーティスという者です。オールドラントという惑星のマルクト帝国首都、グランコクマにいたはずなのですが、気付いたらこちらの世界に放り出されていまして」
「異世界、ですかぁ・・・」
「確かに、見たことのないエーテルが体内を巡っているわ・・・」
「ヤ・シュトラ、貴方には彼のエーテルの流れを見てもらいたかったのよ。彼、元いた世界の魔法をここでも使えるみたいなのだけど、エーテルとの親和性がどうなのか・・・ね」
「わかったわ、少し移動しましょう」



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