雪がちらほらと降り始めた。
あたりが少し薄暗くなる。
天気の変化によるものではない、黒い何かが見えた気がした。

「メリー、あれは・・・」

左前方に大きな魔物の影。
少し近付けば遠くからでもはっきりと見えるようになった。
この距離から見えるということは、相当な大きさの魔物のようだ。

「あれは・・・カイザーベヒーモス・・・!」
「強い魔物ですか?」
「えぇ。これは迂闊に近付けないわね」
「戦いますか」
「いえ、ここは彼らに任せましょう」
「彼ら?」
「ほら、近くに冒険者がいるわ。もう少し待てばきっと・・・」

数分も経たぬうちに、空を覆い尽くすほどの数のチョコボや竜などいろんなものに乗った冒険者が飛んできた。
近くに降り立ち、戦闘準備をしている。
ガヤガヤとした声が聞こえてくる。数十人、もしかすれば百人近くはいるかもしれない。

「これ全員冒険者ですか?」
「そうよ。あ、始まったわね。巻き添え食らわないうちに行くわよ」

激しい戦闘が始まったのを見下ろしながら通り過ぎる。
ひとりひとりは見えないが、派手な魔法に金属の鳴る音に癒しの光と、とにかく大混戦になっているのがわかる。
カイザーベヒーモスが前脚を上げて立ち上がる。
突如付近一帯に降る隕石。
爆風が視界を悪くする。大惨事かと思いきや、煙が晴れるとベヒーモスは倒れていた。
冒険者たちの姿はもう小さすぎてよくわからない。

「ベヒーモスが倒れたようです」
「結構遅かったわね。人の集まりが悪かったのかしら」
「あれで、ですか?」
「そうよ。あれはいわゆるレアな魔物で、倒して報酬を頂きたい冒険者がたくさんいるのよ。だから数で押せば何てことないわ」

やられる前にやる、と以前彼女が言っていたのを思い出していた。
その本質を、今ここで垣間見た気がする。
自分たちの世界とはやはり全く違う場所なのだと、改めて思い知らされた。

「こちらの冒険者の実力は、私の故郷の軍より数段上なのかもしれません」
「そうなの?まぁ光の加護のおかげかしらね・・・」
「光の加護?」
「あっ、えぇと、これはあんまり詳しく言えないことなの、ごめんなさい」
「いえ、構いませんよ」

珍しく慌てた彼女の声。
初めて彼女が言葉を濁した。
外から来た人間に言えないことくらいあって当然だ。
しかし、それに不満を感じていたのも確かだった。

あれだけ遠くに見えていた山ももう目の前だ。
山と山の間をくぐり、洞窟を抜けると、先程までとは一転、緑の世界が広がっている。

「ドラヴァニアに入ったわよ。今日はここからもう少し先の集落で休むことにするわ」

すぐにその村は見えてきた。
手前でチョコボを降り、歩いて集落の中に入る。
そこそこの数の人がいる。チョコボもいるが、彼女が連れている赤いチョコボよりだいぶ小さい。おまけに黄色の毛並みばかりだった。



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