旅の準備は余りにも簡略なものだった。
少し多めの食材、武具の修理材、それだけだそうだ。
回復アイテムの類はと聞けば、自分が回復するから問題ない、と。
気になるなら少しだけ、と言いつつ大量の桃色の薬瓶を鞄に突っ込む。
一体どれだけの素材をその鞄の中に入れてきたのか。
なんでもかんでも同じ鞄に入れる所を見ても、外見からは一向に質量が変わったように見えないその鞄を見れば何も言えなくなる。
恐らく彼女はそれがどれだけ不可思議なことなのか気付いていないのだろう。いや、気付いていたとしても気にかけていないのだ。
テレポの話の時もだが、使えるものは使えるから使う、ただそれだけという雰囲気だった。
それは原理や内情を知りたいジェイドには不満でもあった。


「山を越えることになるから、寒さは覚悟して」

そう言いつつ、防寒着を手渡される。相変わらず言葉と行動が一致していない不器用さが微笑ましい。

「ありがとうございます。軍人ですから問題ありませんよ。それに私は雪国の出身なので」
「あら、そうだったの。なるほど、それでその肌の白さね」


準備を終え、食事を済ませ、翌日に備えて早めに寝ることに。
貴方は下の階、と有無を言わせず連れて来られれば、簡素ではあるが部屋が用意されていた。
昨夜のベッドが移動されてきている。
明日出発するというのに律儀なことだ。

「これはご丁寧に」
「いえいえ、これでぐっすり寝て頂戴ね」

その笑顔になにやら黒いものか見えるような気がするのは気のせいか。
彼女が上階へ行ったのを見送り、ベッドに入った。



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