二人はまた家に戻ってきていた。
彼女の話によれば、イディルシャイアはテレポなら一瞬だがチョコボで行くとなると数日かかる距離らしい。
旅の準備を整えるために戻ってきたはずだったのだが。
庭で彼女は足を止めた。

「ちょっとそこの木人叩いてみてくれるかしら」
「これを?叩く、ですか?」

おそらくこの案山子のことだろう。

「えぇと、貴方の槍攻撃が見てみたいから、その木人を倒すつもりで攻撃を仕掛けてみてほしいのよ」
「なるほど、わかりました」

槍を具現化させ、木人に殴りかかる。

「瞬迅槍!天衝墜牙槍!」

一通りコンボを叩きこむが、木人は一向に壊れる気配がない。
彼女のほうを見れば、腕を組んで考え込んでいる。

「・・・やっぱり見たことないスキルね。当然だけれど」
「そうでしょうねぇ」
「その、技の名前って言わなきゃいけないの?」
「おや?所謂お約束というものだと思ってましたが」
「そっちの世界の?こっちではそんな技名叫ぶ人なんて・・・あー、滅多にいないわ」
「そうですか、しかし技の名前は音素に影響するので、言わない訳にはいかないんですよ」
「・・・そうね、見た事ない技を使ってもらっても困るし、技も封印ね」
「何故困るんです?」
「えぇと・・・まず、エオルゼアでは槍を使うクラスは2種類あるわ。まずは槍術士。一般的な槍使いね。グリダニアの警備を務める鬼哭隊なんかは槍術士がほとんどってくらい一般的だけれど、ほとんどの一般兵は技なんて使わない、使えないのよ」
「ほう」
「力量がないのかしらね?光の加護を持つ冒険者ならそこそこの数スキルアクションを覚えられるのだけど、それはみんな同じ技だけだわ。オリジナルの技というのは冒険者にはないの。その道を極めた一部の人くらいね、独自の技を持つ人なんて」
「なるほど、私が今のような技を使っていると目につく、ということですね」
「そう、目立つなとそればっかりで申し訳ないのだけど・・・」
「構いませんよ、貴女に迷惑をかけてしまうのは不本意ですし。ただ・・・」
「なにかしら?」
「冒険者の使う槍の技、見せていただけますか?」

彼女は返事の代わりに装備をチェンジした。
紫色がかった、体にぴっちりとした鎧。そして長い槍。

「流石、ベテラン冒険者ですね。槍も使えるんですか」
「出来るには出来るわよ、メインでは使わないだけで。ただこれは先程言わなかったほうの槍の使い手、竜騎士」
「竜騎士、ですか」
「そう、竜を狩るための、リーチの長い槍を深く突き刺すための技がたくさんあるわ。竜と千年戦争をしていたイシュガルドのものね」
「千年戦争・・・」
「じゃあ、やって見せるから少し下がって」

壁際まで下がったのを確認すると、その巨大な槍を操りはじめる。
木人の横に立って一息つくと、攻撃を開始した。
圧倒的なスピードで突き刺し、払う。その身軽さに驚いた次の瞬間。
人間業とは思えない勢いで高々と飛び上がり、槍を地面に向けて一直線に飛び降りる。
体は半回転させ綺麗に着地し、続け様に槍で敵を打ち上げるように深く突き上げた。
十数秒のうちにこの猛攻。もう一度高くジャンプして敵に飛びかかると、彼女はようやく攻撃の手を止めた。

「こんなところでどうかしら」
「・・・驚きました。あれほどの技、私は見たことがありません」
「人よりずっと大きくて、その上空を飛ぶドラゴンを相手にする為の技だから。自分の防御は一切顧みないし」
「防御しないのですか」
「冒険者のほとんどが、やられる前にやるってスタンスね。だから盾を持つナイトなんかが敵の攻撃を一手に引き受ける。ヒーラーはやられる前にみんなを回復する。即死さえしなければどうにでもなる、だいたいこんな感じよ」
「それは・・・ヒーラーの負担が随分大きいように思えます」
「そうかもね。でもそれをこなすのがヒーラーの役目だから」

なんでもないと言わんばかりの彼女に、畏怖の念さえ覚えた。



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