「ご馳走様でした。とても美味しかったですよ」
「それは良かったわ」


「そうそう、上にベッドやシャワーもあるから自由に使って」
「ありがとうございます、その前にペンと紙をお借りしても?」
「えぇ、どうぞ」


今日知り得たことと、浮上した疑問点を簡潔にメモしていく。彼女が向こうの席から見ているが、フォニック文字だから読めはしないだろう。無論読まれて困る内容までは書かないが。

「へぇ、それがそちらの字なのね・・・」
「フォニック文字というんですよ」

こちらには音素がないかも知れない、しかし現状それを調べる方法がない。
譜術を使ったことによる体調の変化は今の所感じないが、このままの状態が続けば何れは音素欠乏症による乖離が起こるのではないか。

「乖離?それって一体・・・」

予想外の言葉に顔を上げれば、同じく驚いた顔で紙を見ている彼女の顔。
まさか、これが読めているのか?

「っく、頭が・・・!」

急に頭を抑えて唸り出したかと思えば、ぱたりと力なく机の上に上半身が放り出される。

「メリー?メリー?!どうしました!?」

慌てて駆け寄るも、意識はない。
腕を捲って脈を取る。やや速いが、異常というほどではない。
額に手を当てると、硬くて冷たい鱗に触れた。鱗のない部分で熱を測れば高熱を感じることはなかったものの、果たして自分の基準に当てはめてよいものかどうか迷う。彼女はアウラという、我々とは少し違う種族なのだ。
華奢な身体を抱きあげて2階にあがり、部屋の隅に置いてあるベッドにそっと降ろした。
先程までに比べれば、若干顔色が悪いか・・・外傷は見てわかる範囲には見つからない。

「・・・ん・・・」
「気がつきましたか?」

ゆっくりと目を開け、瞬きをしたあと辺りを見回す。

「あぁ、貴方が運んでくれたの?ありがとう」
「いえ、一体どうしたんですか?いきなり倒れるので驚きました」
「えぇと・・・持病の頭痛が・・・」
「気絶するほどの頭痛の持病、ですか?」
「たまにあるのよ・・・でも痛みで気絶してる訳じゃないから、大丈夫。もう動けるわ」

そう言って起き上がろうとした彼女を手で制する。

「まだ顔色が悪いです。どうせもう夜なのですし、このまま朝まで寝てしまいなさい」
「えぇと、まだすることが・・・」
「何があるんです」
「ベッドひとつしか置いてなかったから、用意しないと・・・」
「そんなこと、別に私は床でも構いません」
「そうはいかないわ」
「では一緒に寝ましょうか♪」
「え」

ぽかんとした表情で固まっている彼女。
くくく、と笑い声を漏らすと、フリーズが解除された彼女は材料持ってるから!すぐに作れるから!とあの早業で着替えて僅か数分の作業の後に、隣に同じベッドをぽんと置いた。
この大きさのベッドがいきなり現れることに驚きはしたものの、どこから出てきたかは考えないことにする。

「ありがとうございます。それでは貴女も寝ましょうね」
「待って今下の階に持っていくから」
「ここで構いませんよ」

新しいほうのベッドに腰掛けてみれば、諦めたらしい彼女がまた普段着へと着替えた。

「・・・おやすみなさい」
「おやすみなさい、メリー」
「・・・」
「とって喰いはしませんから、ご安心を」
「貴方、なかなかいい性格してるわね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「・・・」



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