大きな橋を渡り、荒野を抜け、林を抜け、気付いたら森に来ていた。
沼の上に架けられた吊り橋をこの大きな鳥で渡るのは些か不安に思ったが、彼女は臆することなく進んでいく。
決して乗り心地が良いとは言えないが、この距離を歩くのは1日かかっても厳しいかも知れないので文句は言えない。

「さぁ、降りて」

誘導に従い、歩いていくと桟橋に着く。
渡し舟で向う岸に渡ると、そこはたくさんの家が並ぶ住宅街のようだった。

その中でも奥へ奥へと進んでいき、一見してわからない滝の裏側を通ってたどり着いた一軒の家。
庭には色とりどりの花が咲き、テーブルとベンチ、小さな小屋、そして何故か置いてある案山子に目を奪われるも、玄関扉の開く音でそちらを向き直る。

「私の家よ」
「お邪魔します」
「他に誰もいないから気にしなくていいわ。行くところもないでしょうからしばらくここを利用して」
「随分親切にして下さるんですね」
「そうね・・・貴方に興味がわいたから」

そうやって不敵に微笑む彼女の瞳から目を離すことが出来なかった。


「あぁ、ちなみに外に出るのは自由だけど、家に入るには私が扉を開けないといけないから気を付けて」
「おやおや、実質的な軟禁ですか?」
「さぁ、どうかしら」


にこにこ笑みのまま、どうぞ座ってと促されて席に着く。
丸テーブルに椅子がふたつ。

「コーヒーでいいかしら。お砂糖は?」
「ブラックで結構ですよ」

慣れた手付きでコーヒーを淹れ、片方にだけ砂糖を入れてかき混ぜ、桃色のテーブルクロスの上にマグカップが置かれる。
頂きます、と一言断り口にした。
初めて飲むような風味、温かさが身に染みる。

「さて、カーティス大佐だったかしら」
「ジェイドで構いませんよ、こちらでは階級は無意味ですし、ファミリーネームには馴染みがないもので」
「ではジェイドさん」
「はい」
「これからどうするの?」

余りにざっくりとした質問に、答えに躊躇う。

「そうですね・・・帰る方法を知りたいですが、手掛かりも皆無です。しばらくこちらにいるしかないようですので、まずはこの世界について学ばなければならないでしょうね」

彼女はコーヒーをかき混ぜながら、何やら思案している様子。
マドラーのカタカタという音だけが響いていた。


「とりあえず、メリー」

急に名前を呼ばれて驚いたのか、勢いよく顔をあげる彼女。

「助けて下さって、ありがとうございます」
「どういたしまして」

彼女の柔らかく神秘的な微笑みに、安らぎをおぼえるのだった。



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