冥王ハーデスを打ち倒し、水晶公と共に闇の戦士一行がクリスタリウムへと凱旋する。
夜空と共に待ち受けていた人々に歓迎され、今日は一晩中祝勝会と言う名のお祭り騒ぎだ。

美味しい料理を食べながら、激戦の様子を語りあう。
取り分けたサラダの皿をアリゼーに渡すアルフィノを見ながら、リーンは思い出していた。
アリゼーの危機に身を呈して庇う兄のアルフィノ。
性格の全く違う二人でも、肝心なときには支え合う姿をぼんやりと羨ましく思うのだった。

「なんか・・・兄弟って素敵ですね」
「そう?面倒なことも多いわよ」
「そうかもしれませんが、でもやっぱり憧れます。私にも兄弟がいれば良かったのに」

ポツリとこぼしたリーンの一言に、反応したのは彼女だった。


「あら、それなら彼に言えばいいじゃない」

隣で静かに肉を頬張っていたのに、シュトラの爆弾発言に盛大にむせる。
咳をしながら声の主を見れば、ほんのり紅潮した頬でこちらを優しく見つめるシュトラの姿。
彼女のグラスは半分以上減っている。しかもさっき見た時とは違う深い紫色。

「さてはお姉さん、ずいぶん呑んでますね・・・?」
「ふふ。ねぇリーン、サンクレッドにお願いしてみなさいな」
「お願い、ですか?」
「えぇ。兄弟が欲しいって」
「?・・・はい」

素直なリーンはそのまま立ち上がり、彼のほうへ歩いていく。

「ええ!?ちょっと、待って。シュトラも何言ってんの?!」
「うふふ」
「うふふじゃなくて!もー!」

急いで追いかけて、待ってと声をかける。しかし英雄の制止もむなしく、クリスタリウムの住民たちと談笑していたサンクレッドにリーンは声をかけた。

「どうした?」
「アリゼーとアルフィノを見てて思ったんですが、あの、私も兄弟がほしいなって」
「・・・は?」

サンクレッドの視線がリーンを見、そしてその少し後ろで手を伸ばしかけた状態で固まった彼女を見る。
目が合うと彼女は踵を返し、一目散に駆けて行ってしまった。
サンクレッドの視線を追ったリーンもまた、かの英雄が走り去る後ろ姿を目撃したのだった。

「ハハッ、兄さん若いからまだまだ大丈夫だろ!いい恋人がいるのか?」

英雄の遁走には気付かなかったらしい彼にサンクレッドが答える。

「そうだな、大事な恋人に逃げられたらたまらないからちょっと行ってくる」

別れの挨拶代わりに頭にポンと載せられたサンクレッドの暖かい手。
ヒュウと囃し立てる青年。
サンクレッド、と彼の背中に声をかければ、近くにいたらしいウリエンジェがそっとリーンの隣に立つ。

「私・・・もしかして傷付けてしまったのでしょうか」
「あの二人ならきっと大丈夫ですよ。あとで見に行ってごらんなさい」
「はい・・・」

 



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