この人が、サンクレッドの故郷の英雄らしい。 偉業としか言いようない数々の功績、あらゆる敵に打ち勝ってきた実力。 どんなツワモノなんだろうと思っていたけど、その人は拍子抜けするほど普通の人で。 いや、携えた武器が似合わないくらい、綺麗で儚い人でした。 「ミンフィリアちゃんって呼んでいい?」 「あ、はい・・・」 「やったぁ」 そう微笑むのは、どこから見ても、年相応の素敵なお姉さんでした。 そして・・・ 「メリー」 「うん、つけられてるね」 「どうやら数は少ないようだ」 「ミンフィリアちゃんたちは、先にリダ・ラーンに戻ってて。ちゃちゃっとやってくるから。ウリエンジェ、よろしくねー」 「仰せのままに」 「久しぶりだからと気を抜くなよ?」 「ふふ、誰に言ってるの?」 二人は揃って背を向ける。 サンクレッドが、あんなに会えて嬉しそうにするなんて。 宣言通り、私たちがリダ・ラーンに戻って間もなく二人も帰ってきた。 「ユールモア軍とは無関係のようだったよー」 「恐らく野盗だな。ともあれひとまずは安心だ」 「大丈夫だった?ミンフィリアちゃん」 「はい・・・!」 「良かった。さて、じゃあ改めて出発しますか!」 そうやって笑顔を向けてくれる姿が、背景のたくさんの花に負けず劣らず輝いて見えた。 二人が先頭を切って進んでいく。その姿を眺めていると、ウリエンジェが声をかけてきた。 「彼にとっては5年ぶりですからね、積もる話もありましょう」 「はい。それは・・・わかるのですが」 「彼女は、私たち暁の血盟の・・・希望ですから」 「希望・・・」 最初はわからなかったその言葉も、過ごす時間が増えるごとに自然と理解していった。 決して諦めずに、小さいことも順当にこなしていく姿が。 どんな種族の誰に対しても分け隔てなく接する姿が。 時々失敗しては、その屈託無い笑顔で笑い飛ばす姿が。 そしてひとたび戦いとなれば、打って変わって真剣で闘志を燃やした眼差しを向ける姿が。 まさしく、英雄そのものであるのだと。 「あの、私も着いて行っていいですか?」 彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに笑顔を向けてくれる。 「勿論だよ、じゃあ一緒に行こう」 「メリーさんは・・・」 「メリーでいいよ〜」 「あ、はい。メリーは、どうしてそんなに強いんですか?」 「そうだねぇ・・・」 草原を歩く音の中、それまでとは違う、はっきりとした声が響いた。 「守りたいから、かな」 「守りたいから・・・」 「守れなかったものがたくさんあったから・・・これ以上もう失いたくないからね」 「メリーでも、守れなかったものが・・・?」 「そりゃあ、たくさんあったよ・・・」 ちらりと横を見れば、どこか遠い目をした彼女の姿。 「私はもう何も失いたくない。暁のみんなも、クリスタリウムのみんなも、そして、あなたも」 気付いた彼女と視線がかち合う。微笑む姿が美しいと思った。 「私も、ですか?」 「勿論!だって、サンクレッドがあんなに大切に思ってるんだもの。サンクレッドの大切な人は、私の大切な人だよ」 サンクレッドの、大切な、ひと。 「そう・・・なんでしょうか」 「そうだよ!だから、これからよろしくね」 「・・・はい!」 依頼をこなして、プラ・エンニ茸窟に戻る。報告を終えると、サンクレッドの姿があった。 「ただいま、サンクレッド」 「あぁ」 「あの、サンクレッド・・・」 勝手にメリーに着いて行ったこと、怒られるかな、と思ったら。 「メリーと行ってたのか。勉強になったか?」 「・・・はい!」 「そうか。あいつはあぁ見えて一番の猛者だからな」 「えー、どう見えるのさー」 「さっき何もないとこでこけてただろ?俺は見てたぞ」 「えっ、マジで?やだなぁもうー」 サンクレッドは、彼女に全幅の信頼を寄せているのだと気付いた。 私もいつか、あなたのようになれるのでしょうか。 未だ談笑を続ける二人を穏やかに、そして少し羨ましく眺めていた。 back * top |