「ふぅ、今日も疲れたなぁ…」

部屋の鍵を開ける。
まだ彼は帰ってきていないようだ。
荷物を置き、一息つく。
仕事のあとはどうしても疲れてくたくたになってしまう。

「ふふ、でも今日は…♪」

今日の仕事が終わったら食べようと、大好きなみかんゼリーを冷やしておいた。

上機嫌で冷蔵庫をあける。
昨日入れたはずの段に…ない。
よくよく探すも、ない。
冷蔵庫の中にない!

まさかと思って、ゴミ箱をあけてみる。
一番上に、空っぽになったゼリーのカップがあった。
こんなことする犯人は一人しかいない…

「あたしの、みかんゼリー…」

冷蔵庫は共有だから、名前を書くなり事前に宣言しておくなりの自衛手段を取るべきだったのだろうけど…
そもそも、自分が買ってきたわけじゃないものを、確認もなく食べちゃうか?
メールででも一言くれれば、帰りにもう一度買って帰ったりも出来たのに…

ぺたりと床に座り込んで茫然としていると、遠くからドアの開く音。
ヤツが帰ってきた。

「ただいま…って、レミリア?どうした?」

「冷蔵庫のみかんゼリー、食べたの、ニール?」

「あ、あぁ…仕事前に甘いもの食べたくなって…やっぱり、楽しみにしてた?」

やっぱりニールが食べたんだ。
この部屋に入って勝手に冷蔵庫から取り出して食べるなんてニールしか出来ないってわかってたけど…
やっぱり、ニールが食べたんだ…


「そっか…でも、食べちゃったのは仕方ないもんね…」

「レミリア…」

「…美味しかった?あたしの、みかんゼリー」

意識したつもりはなかったのだけど、悔しさがにじみ出るセリフになってしまった。
おろおろするニールがわかりやすい。

「あのさ、やっぱり食べちゃって罪悪感あったから代わりにこれ買ってきたんだけど…」

そう言ってなにやら鞄から取り出した。
差し出されるままに受け取る。
綺麗な濃い紫色。

「ぶどう…」

思ったことがそのまま口から出てしまった。
それを聞いてニールは一層慌てる。

「そのシリーズのみかんだけなくてさ、他のみかんゼリーよりはいいかなと思ったんだけど…やっぱりみかんのが良かった?」

「…ううん、ありがとう。ぶどう、食べるね」

「あぁぁ、やっぱり今からみかん買ってくるからちょっと待っててくれ!」

そう言うと、彼は部屋から走って出ていった。



「――ってことがあったの」

再度買いに走った彼を見て、何事かと聞いてきたクリスに説明した。

「なるほど…意外と可笑しいんだね、ロックオンも」

「ほんとに、なんで最初からみかん買って来なかったんだろ…別にメーカーとかサイズとか気にしないのに…」

「えぇー、そこー?」

「え、違うの?」

「…レミリアはほんとにみかんゼリーが好きなんだってことがよくわかった」



後日、気を利かせてくれたのかはわからないが、食事でフルーツのかわりにみかんゼリーが付いた。

クリスの人徳によって(?)集められたみかんゼリーが私の冷蔵庫を占領し、またも勝手に食べたニールがクリスに怒られるという、よくわからない展開になっていった。



災い転じてなんとやら


んふふ、みかんゼリー、美味しい。





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