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※18禁小説注意





 美術作品の前に張られた警戒線。美術作品を護る警備員、そして機械的なシステム。執拗に管理されているから、というよりもなにか、本質に訴えかけてくるかのように、美術作品には破壊願望を呼び起こすものがある。美しいものへの疑惑やら恐怖やら加虐心は沸々と煮えたぎるも、それを開放させるほど源田は常識というものを手放せなかった。だからといって今の状況が即興的かと言うと、否と答えざるを得ない。

 外発と言うよりは内発的に起こった感情は高まりを増していき、彼の理性をも乗っ取ってしまった。麗しいその人は容貌では数少ない男性の眼差しを源田に向けながら、酷く女性的な声を漏らしている。源田は相手の瞳の中に恨み真髄に徹するの光を見たような気がして、滑らせる手を止めるのを恐れ始めていた。そう、卑屈な彼の心はここで相手を解放して許しを請うよりも、相手を共犯へと貶めようと働いていたのである。

 組み敷いた相手が、外見からは連想できない、男子としての強さを用いて自分をはね除けないことに縋るように、源田は意識的に思考を排除していった。

 源田の視線はいつの間にか佐久間次郎の背中に注がれるようになっていた。初めてその感情で相手を見たのはユニフォームに微か浮き上がる彼の肉体のラインを追った時だった。動きに沿って隆起する筋肉の形から、細く匂い立つ、独特の色香まで、気付いたその時、濁流のように様々な要素と感情が渦巻いた。

 一個そこに存在する芸術作品のように、彼は神聖さと近寄りがたさを有していた。それは同性への恋慕という常軌を逸した自分の、微かな道徳心やらが感じたものだったのかも知れない。ただ、触れてはならないとされればされるほど、自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、そのものへの破壊願望じみた想いが募るばかりであった。

 上手く呼吸の出来てない唇へ口付けすることは源田にはできなかった。その途端逆襲として舌を噛み切られるような怖れがあったからだ。男性を受け入れることに慣れていない相手で無理矢理想いを果たすことはできい。ただ戯れのように二つの性器を合わせて相手が苦渋の中に垣間見せる、欲情の表情を目敏く見つめる。佐久間の唇はその間、意味のある言葉を一言も発しなかった。

 弥が上にも粘着質な白液が彼の体から溢れ、混ざり合ってしまう。嗜虐的な心が、佐久間の哀しみやら嫌悪の表情までも快楽へと貶めていく。グチュグチュと淫乱な音が響き渡り、源田を高揚させていく。彼の脳内には一つのヴィジョンが浮かんでいる。中世の画家が描く、少年の林檎のような頬を破り去るイメージ。源田は自分を異常だと再認識した。激しい呼吸音がおさまっていく中、満ちてくる静寂が痛かった。愛おしければ愛おしいほど募る破壊願望は無意識の内に、彼の頬を濡らしていた。そこをなぞる温度は源田の錯覚ではなかった。確かに、佐久間は源田を見返し、どこか憐憫の光を窺わせながら相手の頬に手を沿わせている。

「俺はきっと、お前を許すだろうよ」

 夢幻のように、儚げに源田の耳を通り過ぎた言葉が、声の合間に消えていった。


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