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※18禁小説注意




「……お前の大好きな鬼道が来たぞ」
「そういう軽い言い方をするな!」
「お前、ちょっと相手しろよ、こいつじゃ手応えがない」
「バカみたいに言うなよ」
 相手にならないという所は認めているのだろうか、佐久間は面白く無さそうに小さく不平を漏らした。

「将棋か。俺もそこまで経験はないぞ」
「鬼道はチェス派だよな」
 終局している盤上を片付けつつ、小さな口論を繰り返す二人を見下ろす。しばらくして佐久間が席を立ち、鬼道に譲る。始まって数分を佐久間は興味深げに眺めていたが、今いる談話室の入り口からマネージャーに呼ばれ離れていく。残った二人は対局を続けるが、今一歩の所で所詮は不動に軍配が上がった。「もう一局チャンスをやるよ、手合割は?」と軽口をたたく不動に余裕の笑みを見せた鬼道が初形の位置に駒を置く。

「いらない。平手戦ではすぐに終わる」
「言うねェ」
 やり方を思い出したとでも言うように格段に手強くなった相手の手に悩み始めるも、不動はそれを表にはださない。

「俺はお前を完膚無きまでに負かしたいと思っているんだが」
 わざとらしい空打ちをした後、将棋を指す不動に眉一つ動かさない鬼道が応戦する。
「いい駒を見つけた」
 パチンという小気味いい音が響く。戦略の練習用にと用意された将棋やチェスなどは結局、鬼道や不動が主に使用するのみなので、盤や駒は真新しく綺麗だ。

「飛車というわけか」
「玉将だろうよ」
 チェスで言うところのルークではなくキングたる玉将を示した不動は本心を隠すような微笑を浮かべている。狡猾なそれは油断がならないことを鬼道に警告している。

「お前のポーカーフェイスは中途半端なんだよ」
「ほう」
「俺があいつと一緒にいる時の顔、とかな」
「無意識だ。今度からは気をつけよう」
「……意外に素直だな」
 拍子抜けとばかりに真っ直ぐ視線を返してくる不動に肩を竦めた鬼道は押し黙る。盤上を眺めながら相変わらずの無表情である。

「やっぱり取られると痛いか?」
 口角を上げた鬼道が不動に向き直る。彼の指した手で盤上は既に傾ききっていた。打つ手ない布陣を見下ろしながら「えげつねェな」とぼやいた不動はそれでも愉快そうにしている。結局の所戦況は五分五分なのである。

 夕食を知らせる声を耳にした鬼道は自分の勝利を示す盤上を片付け、椅子を立つ。

「玉将と言うことは、お前自身が奪われても困るということだろう」

 マントを翻して談話室をあとにする鬼道の後ろ姿に、額に手を当てた不動が口を尖らせる。全く食えない男である。



 呼び止められ、自分の部屋に来るようにと告げた鬼道に隠しきれない喜びを示した佐久間は、今現在相手の様子に怯みつつある。にじりにじりと壁に追い詰められた佐久間は、なぜ逃げるのかという質問に自身でも小首を傾げた。偏に鬼道の装いがいつもと違うということがある。ゴーグルを介していない瞳の、その色さえも別物に見える。ギラギラと獲物を狙うような肉食獣のそれに本能的な逃げを見せる佐久間は結局背中を壁にぶつける。

「鬼道?」
 恐る恐る名前を呼ぶ佐久間の髪を一房取ると、それに口付けて鬼道はもう片方の手を相手の太股に沿わせた。ジャージでもユニフォームでもない、ラフな格好の佐久間は剥き出しにされた太股を震わせる。次第に上がってくる手の動きに合わせるように、唇を佐久間の口許へと移動させた鬼道はそこへ噛み付く。動揺を隠しきれないながらも、久々の感覚に貪欲になる自分がいた。鬼道の指が下着一枚越しに侵入してくる。執拗な愛撫に濡れた感覚が伝わって頬を染める佐久間が情欲を映す瞳を背けた。ハッキリと形が分かる段になってニヤリと笑って見せた鬼道に苦しげな吐息を吐き出した佐久間が唇を噛む。

「うっぁあ……」
 直に触れた指先に思わず声を上げた佐久間の後方へ指を動かし、鬼道は相手を後ろ向きにさせる。壁に両手をつくような形で立つ佐久間、そのズボンを下着毎下ろした鬼道が濡れた箇所を攻め立てる。

「随分溜まってたみたいだな」
「っ、あっ」
「ひっぐゥ……」
 侵入してくる指先に苦しげな声を上げた佐久間が断続的な喘ぎ声を上げ始めた。経験のある佐久間の下腹部は容易に鬼道の指を受け入れ、快楽を知る佐久間の体は物足りなさに疼いている。

「挿れるぞ?」
 わざとらしく了承を得る鬼道に必至に頷く。そのうなじにキスをしながら、鬼道は挿入口に自身を宛がった。

「あっ……ぅ……」
 期待に震えるような声が半開きの唇から漏れ出る。次の瞬間中を割って入ってくる感覚に佐久間は身を捩らせた。

「ふっ……んん……」
 締め付けてくる感覚を味わいながら、奥までの侵入を終えた鬼道が相手の一物に指を絡ませる。開始される下半身の動きと合わせて、久々にしては強すぎる刺激が佐久間の中を駆けめぐった。

「ああっい、ああっ……」
 壁に必至でしがみつくような形の佐久間は、今や腰を突き出して鬼道に懇願しているように見えた。支配欲が満たされていく鬼道は加虐的になりそうな自分を抑えつつ、心地より佐久間の悲鳴を聞き届ける。

「佐久間」
 顔が見たい、と耳を甘噛みしつつ口にした鬼道に、佐久間は戸惑いながら首を振る。今の自分の表情を見られてはやっていけない、そう答えているようだった。

「拒否権は与えていない」
 一昔前、帝国学園サッカー部の頂点に君臨していた男の貫禄で言い放たれた佐久間は背中を揺らした。しばらくの逡巡のあと、両手に力を込める形で向き直った佐久間の表情に、思わず鬼道は唾を呑んだ。乱れた眼帯を外し、両の濡れた瞳を見つめつつ、鬼道は汗で額に付いている相手の髪を梳いた。

「お前はまだ、俺のものか?」
「きど……お、俺は……お前以外のものになるつもりはない……」
 躊躇いがちに答えた佐久間が、一旦外していた瞳を相手に戻す。それを合図に微笑みを浮かべた鬼道はその動きを再開した。

「ああっ……!!いっああぁ、や、きど……」
 足を持ち上げる形で深く入り込む鬼道の、知り尽くした動きに翻弄されながら、佐久間は一層高い声を上げる。

「いっ、いく……!きどうっ」
 涙目になりながら鬼道にしがみつく佐久間が、断続的な高音を発しながら身を強張らせる。喉元を見せつけるように仰け反りつつ、彼は怖ろしいまでの快感と共に果てた。
 ずるずると力なく膝を折る佐久間を抱えながら、鬼道はその頭部に口付ける。しなやかな髪は香しく、仄かに甘い匂いがした。

「この先も俺のものでいてくれるなら、それでいい」
 子供ったらしい独占欲を不意にちらつかせながら、赤い炎を宿したかのような瞳が暗く煌めいた。


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