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 Cake・Chocolate・Parfait・Biscuit・Candy・Ice cream・Jelly beans・Chewing gum・Gelato・Licorice candy・Tortilla・Potato chip・Cream puff……CoolなのはBlue&Purpleのクリーム、味はブルーベリーでSweetすぎて口の中がColorfulに染まっていく。
ディランは同世代の男の子たちと同様、お菓子がとても好きだ。新商品が見つかるとマークと一緒に買い込んで取り敢えず食べてみる。そうして美味しいとか不味いとか、普通だね、とか言い合ってお気に入りを決めていく。二人は一之瀬と土門に日本のお菓子をせがんでお土産に買ってきて貰った。様々な種類のものを興味津々に食べていく。結果、美味しいものもあったが、どうにも刺激が足りなかった。色にしても味にしても、目から舌から頭にガツンとくるものが余りない。

「アンコは美味しいと思ったよ」
「えー……そうかなあ」
 一之瀬が「相変わらずグロテスク」と称した、地元で有名なカップケーキを口にしながら言い放ったマークの言葉に同意しかねて、ディランがクッションを抱えた。彩度の高いクリームがマークの口許を飾るのを見つめたディランは、いつの間にか目が離せなくなっていた。赤く染まった彼の舌先が唇を舐め、時折手でクリームを拭ってその指先を舐めとる。

「美味しそう。」
「美味しいよ。」

 お前も知っているだろう?と言ってマークが差し出してくるそれを受け取って、口に含むと、どういう訳か日本の菓子を食べているように甘さが幾分足りなく感じた。拳よりも少し大きいワンカップをすっかり食べきったディランは、二つめに突入しているマークを再び見つめた。ローズピンクのクリームの間から細かく砕かれたスプリンググリーンのキャンディーが見え隠れしている。人が食べているものほど美味しそうに見えるのはなぜだろうか。舌なめずりをしてクッションを横へ追いやると、ディランは身を乗り出した。迫ってくる相手にカップケーキを付けないように避けながら、どうした、とマークは唇を動かした。次の瞬間、そこはディランによって塞がれる。甘い唾液が行き来している。マークの手の内から離れた食べかけのカップケーキは、ゴミ入れにしていたビニール袋の上にべちゃりと落ちた。クリームの中の砂糖と、キャンディーの欠片がジャリジャリと舌を刺激している。それが溶けきる頃に離れたディランは未だ残る口内の甘さに恍惚としていた。

「ディラン……?」
 何をされたか理解しきれないマークはキョトンとしたまま相手を見つめていた。その視線にしたことを自覚したディランは、自分自身驚いて口を噤んでしまった。

「ソーリー、美味しそうだったんだよ、マークのカップケーキ」
「食い意地張るなよ」
 マークの反応は不正解だとディランは呆然と思った。彼は惜しそうに落ちたカップケーキを処理している。天然な所のあるマークらしいといえばそうなのかもしれない。けれども拒絶の一つでもしてくれない限り、ディランはもうマークの唇についたクリームにしか満足できなくなりそうだった。


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