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 久し振りのようで、実際、久し振りでない声が電話越しに聞こえてくる。飛行機で何時間もかかる距離にいながらも通じ合える文明は凄いなどと的外れなことを漠然と思いながら、源田は練習で疲労した体を椅子に投げ出した。机の上には先だってまで鬼道、そして佐久間が行っていた事務処理用のプリントが雑多に置いてある。

「そっちはどうだ?」
『得には。帝国のみんなは?』
「元気すぎる位だ。得に一年を中心に勢いづいている」
『そうか』
 安心したように、嘆息を交えた言葉を落とした佐久間が開ける間すら心地好い。

「お前がいないと、やっぱり寂しいよ」
 そんな感情を口にして、源田は目を伏せながら電話に意識を集中する。やがて控えめな呼吸音の後に佐久間の声が届いた。
『源田、俺さ、お前と離ればなれになることって、余りなかったんだなって思ったんだ』
「そうだな」

 寮で、同じ飯の釜を食べた仲である。長期休みもほとんど学園に残って部活をしていた関係で二人は、出会って以降、あまり離ればなれになる機会がなかった。先日のネオジャパンの時も、互いに忙しく意識していなかっただけで、恐らく会いたければ会える環境にあったのだ。

『だから色々初めてが多い』
「どんな?」
『電話越しのお前の声に慣れたこととか、一々説明しなくても行動が分かる奴が傍にいないのが不便だって知ったことも、離ればなれになるのが寂しいってことも、声を聞くのが楽しいのに何となく寂しいっていう変な気持ちも、お前の顔がぼやけてくることとか』
「最後のは聞き捨てならないな」
『冗談』

 くつくつと笑う佐久間の、今の表情だって源田には手に取るように分かった。それ程、源田は佐久間のことを見つめてきたのである。

『あのな、源田』
「どうした?」
『やっぱり俺さ、お前のことが好きだ。だから寂しいけど、寂しいことがお前が好きってことに繋がってるから、悪くないかもなって、思う』
 面と向かっては、絶対に言わない言葉だろう。電話越し、少し後悔をしながら、こちらの出方を待ち、視線を忙しなく動かして頬を染めている、そんな佐久間が目に浮かんでで、源田はプリントの散らばる机に突っ伏した。そしてくぐもった声で言うのだ。
「ただ一つ、やっぱり、佐久間を抱き締められないのは辛い」
 遠距離も味があるし、相手の意外な面が見られていいかもしれない。それでもはにかみながら『ばか』と呟く相手の温もりが恋しくて、源田は大人げなく唇を噛んだ。


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